生態系サービスを支える取り組み
毎年5月22日は、生物多様性条約の発効を記念して制定された「国際生物多様性の日」である。2年おきに開催される生物多様性条約締約国会議は、第9回会議が5月19日からドイツのボンで開かれるが、2010年には第10回会議が名古屋市で開催される。国連は2010年を「国際生物多様性年」と定め、この年までに生物多様性の劣化速度を顕著に減少させることを目標に掲げている。
暮らしの豊かさの拠り所
生物多様性がなぜ重要であるかと言えば、私たちの暮らしの豊かさが生物多様性の機能である生態系サービスに大きく依存しているからである。世界から1360人の専門家が参加した生態系に関する世界的な調査「国連ミレニアム生態系評価」(2005年3月)によれば、高度経済成長や過剰消費、人口増加などによる過去50年間の生態系の改変によって、生態系サービスの70%が下降線をたどっている。評価は24項目について生態系サービスの変化を調査しているが、サービスが向上したのは穀物、水産養殖、家畜などの4項目だけであって、野生動物種、水の浄化と廃棄物の処理、大気質の調節などの15項目でサービスは大きく低下している。生態系サービスの低下は人類の福祉を構成する諸要素に深刻な影響を与えている。
生物多様性の劣化と生態系サービスの低下の原因を作っているのは食物連鎖の頂点にいる人間自身の活動である。65億人を超えた人類は生態系サービスのバランスのよい利用の仕組みを考案しなければならない。生物多様性を保全する国際的な取り組みは、水鳥の生息地として重要な湿地を保全するラムサール条約の採択(1971年)に始まり、1992年にリオで開催された国連環境開発会議で採択された生物多様性条約に従って本格的に実行されるようになった。条約の画期的意義は、多様な生物をその生息地ともに保全することにくわえて、その持続可能な利用を目的として掲げていることである。07年現在、条約の締約国は190カ国に達しているが、アメリカは依然として不参加である。
多国籍企業も無視できない
競争力と環境保護を調和させる社会経済モデルを目指しているEUは、京都議定書に従って温室効果ガスの削減に取り組むとともに、生物多様性を保全する国連の枠組みと提唱に従って、2010年までに加速化する種の減少を阻止する行動計画を展開している。欧州議会は2007年に、欧州委員会が前年に公表した報告書「2010年までに生物多様性の喪失を阻止し、さらにその先へ。人類の福祉のための生態系サービスを支える」を採択した。
生物多様性の保全は多国籍企業にとっても無視できない課題になりつつある。石油・ガス開発、農林水、食品のみならず、製薬、化粧品、海運、航空などの産業も生態系の多様性と深く関連している。投資を通じたつながりまで考慮すれば、金融業も生物多様性と関連する。IUCN(国際自然保護連盟)が作成した『ビジネスと生物多様性』によれば、多国籍企業が生物多様性への取り組みに失敗すると、途上国政府からの操業許可の取り消し、不買運動、ブランドイメージの悪化、従業員の士気低下などのリスクが生じる。日本や韓国の企業も、CSR(企業の社会的責任)の一環として生物多様性の問題に取り組み始めている。
(関西大学教授・若森章孝)
生物多様性の劣化 種の多様性の急激な喪失、遺伝子多様性の減少、生態系の多様性の衰退が進行しつつある状態を指している。次の世紀までに、鳥類の12%、哺乳類の25%、両生類の32%が絶滅するであろうと予測されている。
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