高齢者医療に生まれる勝ち組、負け組み
2055年には、65歳以上が人口に占める高齢化率は現在の倍の40・5%になると予測されている。
厚生労働省の発表した2006年度の国民医療費32・4兆円の中で、70歳以上の高齢者の医療費が42・4%を占めている。70歳未満の一人当たり医療費が15・8万円であるのに対して、70歳以上の高齢者一人当たりの医療費は74・2万円で、70歳未満の人の約5倍にもなっていることが示されている。高齢化の進展は医療費の増加を意味している。
医療保障の危機状況
日本では「国民皆保険」とされ、日本国内に住所を有する全国民は何らかの形で公的医療保険(健康保険)に加入するように定められている。
さらに、健康保険には高額療養費制度がある。70歳未満の高額所得以外の一般の場合、医療費が100万円であれば、30万円の自己負担となるが、1カ月あたりの自己負担上限額を超える約21万円が健康保険から払い戻される。保険診療を受けている限りにおいては、自己負担上限額を超える負担はない仕組みである。
さらに、2008年に医療保険と介護保険の自己負担額を合算した年間の合計額が年間の限度額を超える場合に、「高額介護合算療養費」を支給する制度が設けられた。世界的に見ても日本ほどの医療保障が整っている国はない。
この医療保障は、高齢化の進展などによる医療費の増加のため、危機的な状況にあるといわれる。
1973年に「老人医療制度」が創設され、70歳以上の高齢者の自己負担金は無料となったが、その財源の大半は、拠出金というかたちで、現役世代および高齢者世代の保険料が充てられている。
高齢者に負担ジワリ
しかし、増大する医療費と医療保険財政悪化に対応するため、高齢者にも負担を求めるようになった。
65歳以上は、国民健康保険料が介護保険料と共に年金から天引きされる。しかも将来、高齢者がふえるにつれて保険料が自動的に上がる仕組みである。
2008年4月から、71―74歳の高齢者は、医療費の本人負担額が既存の1割負担から2割負担に引き上げられ、夫婦二人世帯で年収520万円以上の人は、3割負担となった。
一方、健康保険では、保険が適用されない保険外の療養を受けると、医療費の全額が自己負担となる。この保険適用外の療養を受ける場合でも、一定の条件を満たした「評価療養」と「選定療養」については保険との併用が認められ、保険外の診療分は自己負担となるが、通常の治療と共通する部分(診察、検査、投薬、入院料)は、保険としてその7割(70歳以上は9割)が給付される。
先進医療・治験に係る治療などの「評価療養」は保険適用の対象とすべきかどうかを評価する療養で、評価が確立すれば保険適用に移行される。「選定療養」は、差額ベッド代・予約診療・180日を超える入院などで、患者が自ら希望して選ぶ療養である。この保険の部分適用は、先進医療などに一部の保険の適用があるとはいえ、多くが自己負担となり、保険適用外の部分については前述した高額療養費制度の適用もない。
これらは、公的医療保険の適用範囲の縮小による自己負担の増加を意味する。超高齢社会において、高度の先進医療を受けられる勝ち組とそうでない負け組が生まれつつある。
(早稲田大学教授・李洪茂)
75歳以上にも 4月1日から、75歳以上の高齢者にも医療費負担を求める、独立した医療保険制度(後期高齢者医療制度)が施行された。都道府県を単位とする広域連合が保険者となる。増え続ける高齢者医療費の財政負担を抑制する目的で設けられたが、そのあり方をめぐって議論が高まりつつある。 |