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2008年4月23日発行
 
名作アーカイブス ペパーミント・キャンディー(1990・韓国) 
 
 

あの日に帰りたい あとずさりする時代

 「逆戻し」という手法自体が観客の好奇心をそそった映画だが、見終わって絶句してしまった人が多い。日本だけでなく、ヨーロッパでも評価は高かった。
 物語は1999年春に始まり、1979年に終わる。主人公ヨンホ(ソル・ギョング)はシーン冒頭、鉄橋で自殺しようとする。その瞬間、列車が後ろ向きに走り、自分もそれに乗って過去へと引き戻されていく。自分はなぜ死なねばならないのか、という理由を探す旅なのだと説明する解説者もいたが、探せるわけはない。一つ一つの「過去」に主人公の「現在」の意識はない。
 ヨンホは自殺の直前、「あの日に帰りたい」と、ただ叫ぶだけだ。
 時間を逆行させるのは、ミステリー映画やサスペンス映画でよく使われる手法だが、前後の脈絡がうまく繋がらずに観客を混乱させるものも少なくない。「ペパーミント・キャンディー」は、印象的なセリフや小道具といった伏線を巧みに挿み、観る者をうまくリードしている。
 映画はオープニングシーンの後、3日前の自殺を決意するシーン、5年前の事業家として成功しているシーンなどをはさみ、19年前の光州事件に至る。
 ヨンホは20年間で、さまざまな経験をする。職業も変わる。一人の人間が歩んだ半生という点からみれば劇的ではあるが、映画の中のヨンホは、その時代ごとの韓国を象徴する人物像といっていい。時代が遡るごとに電車とレールが映し出される。ヨンホがたどった人生は、その時代に生きた韓国人がたどらねばならなかった道だったということを象徴しているようでもある。
 「韓国現代史を見つめ直した作品」という解説があった。だが、遡るという方法をとらなければ、たぶん、それも時代を跡づけただけの陳腐な言葉に聞こえただろう。
 時代説明をいっさい省いた監督イ・チャンドンの演出力とソル・ギョングの演技力が韓国映画に金字塔を建てたと言っていい。

 
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