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2008年4月23日発行
 
映画CINEMA VIEW
 
 
映画「花はどこへいった」より (C)2007 SAKATA MASAKO
 

■花はどこへ行った(日本)
戦争のツケ 夫はなぜ死んだ
ベトナム戦争はまだ終わらない

 「戦争の傷跡は簡単には消えない」とよく言われる。癒えたように思えても、ふとしたきっかけで傷跡を見せつけられてしまうようなことは後を絶たない。
 元島民や元軍人の証言をきっかけに蘇る「沖縄戦」集団自決の問題もその一つだ。
 映画「花はどこへいった」の坂田雅子監督にとっては、夫グレッグ・デイビスの死が戦争の記憶を蘇らせるきっかけになった。このドキュメンタリー映画は、ベトナム戦争で撒かれた枯葉剤に、今も苦しむ人々を描く。
 グレッグさんは03年、肝臓ガンで亡くなった。ベトナム戦争に兵士として従軍し、戦場で吸い込んだ枯葉剤が肝臓ガンの原因になったと見られた。
 スクリーンには、坂田さんとグレッグさんの出会いから、当時のベトナムの映像が映し出される。最愛の夫を奪った枯葉剤。米軍が散布した。「なぜ?」。この映画を撮ろうとした坂田さんの動機だ。
 映像は、グレッグさんがいた数十年前のベトナムから、現在のベトナムへと変わる。この時、観る者のほとんどは、戦争を問い直したい気分にかられるはずだ。
 場面は生々しい。ベトナムの地中に残る枯葉剤。その土の上で生まれ、育った子供たち。銃声がやんで30年以上経ったはずの現在のベトナムに、戦争のツケという言葉では説明しようもない障害を負った子供たちが生きていて、土中には、いまだ枯れ葉剤が埋もれ続けている。
 「反戦」という一言では片付けられないのだと、映画は言おうとしている。米軍の責任と、解放軍の抵抗とを同断するような日本特有の「反戦論」には与しないという主張がそこにはある。
 6月14日から7月4日まで岩波ホールで特別上映。その後全国順次公開。(文化部・秋一紅)

 

残された時間は6カ月・・・ (C)2007 Warner Bros.Ent.
 

■最高の人生の見つけ方(米国)
洋の東西を問わず名作を生む「男同士の旅」

 タイトルがやや押し付けがましいが、ハリウッド映画「最高の人生の見つけ方」は余命6カ月と言われた男二人が意気投合し、死ぬまでにやりたいことをすべて書きためたリストを手に、残りの人生を疾走する人間讃歌の物語だ。原題の「THE BUCKET LIST」(棺おけリスト)だと日本人にはストレート過ぎるかもしれない。
 実はこの映画、死を意識することの多いお年寄り向けのように見えるが、これから続々と定年を迎える団塊世代こそ、参考にすべき作品かもしれない。やりたいことをとりあえず我慢して長年働いてきた人たちが、第2の人生を前に「さあどうするか」と立ち止まる状況と重なるからだ。だからこそ、「人生を悔いなく楽しく生きるのに遅すぎることなど決してない」というこの作品のメッセージが胸に響くのである。
 大富豪のエドワード(ジャック・ニコルソン)と、家族のために地道に働いてきた自動車整備工のカーター(モーガン・フリーマン)という仕事も考え方も対照的な二人が、偶然病室で知り合う。医師の診断は共に余命6カ月。一度は落胆もするが、切り替えの早い二人は仕事に捧げた人生を取り戻そうと、やりたいことのリストを作り病院を抜け出す。
 年代物のレースカーで競走する、スカイダイビングを体験する、ピラミッドのてっ辺から夕景を見下ろす、タージマハルを訪れる、世界一の美女にキスをする……。
 誰でもすぐ思いつく欲望だけではない。見ず知らずの人に親切にする、泣くほど笑う。精神的な充足を求めてリストに書き加えたのはカーターだった。
 旅を続けるうちに二人は無二の親友となり、互いに何が必要なのかも分かり始める。それは最後の日々を共に過ごすのにふさわしい人の元へ行くこと。エドワードは縁を絶たれた娘との絆を取り戻しに、カーターは愛する家族たちが待つ所へ。
 この展開はありがちという声が起きるかもしれない。だが「スタンド・バイ・ミー」の名匠ロブ・ライナー監督は二人の名優から最高の演技を引き出し見応えがある。しかも随所に笑わせるネタを仕込み、抜かりがない。
 ところで男同士の旅というのは現実にはあまりお目にかからない。女友達同士、あるいは母娘の旅がテレビや雑誌で再三取り上げられるだけに、気になる。映画では余命6カ月と分かっているからこそ、こんな組み合わせも説得力を持つのだろう。
 ケースは違うが米国映画は男同士の旅を再三にわたり描いてきた。「真夜中のカウボーイ」(ジョン・ボイト、ダスティン・ホフマン)、「スケアクロウ」(ジーン・ハックマン、アル・パチーノ)、「イージー・ライダー」(デニス・ホッパー、ピーター・フォンダ)、「レインマン」(トム・クルーズ、ダスティン・ホフマン)がすぐ思い浮かぶ。
 男同士の旅はハリウッドでは格好の材料なのか、それとも珍しいから意図的に取り上げられるのか。名作が多く、しかも一流の俳優がズラリ。一つのジャンルにまでなっているかのようである。「イージー・ライダー」にはジャック・ニコルソンも出ており、彼とダスティン・ホフマンというタイプのまったく違う二人がこのジャンルでも存在感をアピールしているのがおもしろい。
 アジアに目を転じると「マイ・ブルーベリー・ナイツ」でハリウッド進出を果たしたウォン・カーウァイ監督の「ブエノスアイレス」がある。レスリー・チャン、トニー・レオンが地球の反対側まで出かけて愛し傷つけあう姿にはアジア的情念を感じるのである。邦画では青年が初老の弁護士を東京から鹿児島まで車で送る旅を描いた大沢たかお、柄本明主演の「花」も印象深い。が、しかしハリウッドに数で差をつけられているのは広い大陸の有無という舞台の地形的な違いもあろう。となれば中国大陸でこの方面の作品が出てくることを期待しよう。
 さて、最高の人生は人それぞれ。当然“その時”までにやりたいことのリストは違ってくる。おそらく監督もこれがベストと押し付けるつもりはないだろう。あとは自分でリストを作ればよし、作らないのも一つの選択だ。掛け替えのないあなたの人生なのだから。
 5月10日より丸の内ピカデリー2ほか全国ロードショー。
「最高の人生の見つけ方」公式ホームページ:http://wwws.warnerbros.co.jp/bucketlist/
(アジア映画ウオッチャー・紀平重成)


■アディクトの優劣感(日本・台湾)
新手法で描く若者の性とドラッグ

由季宏はヒノコによって次第に「劣等感」にさいなまれていく (C)『アディクトの優劣感』製作委員会
 

 この作品のテーマを語る上でセックスとドラッグ(麻薬)は欠かせないキーワードだ。
 友人とバーを経営しながらセックスとドラッグに溺れる青年由季宏(沢村純吉)が、友人の恋人ヒノコ(青山華子)に恋をした。やがて恋愛中毒者(アディクト)となって、混沌とした日々の中で自殺してしまう。
 無軌道な快楽主義者を気取っていた由季宏にとって、ヒノコへの抑えきれない愛は未知なる快楽であり、その快楽の処理がどうしてもできず、あっさりと命を投げ出す。
 「セックスとドラッグ」に飽きた理由、あるいはそれらの快楽道具より「愛」の方がより凄まじい快楽なのだ、という暗示が込められているとも読める。
 出演者たちのほとんどが演技未経験者だ。出演を熱望する一般人をソーシャル・ネットワーク・サービス「MIXI」によって募集し、オーディションをした。
 当然のことながら、素人に演技ができるのか? という疑問が湧くのだが、この映画は従来の映画とは異なった「デフォメ」という映画技法によって、演技力の問題をクリアにしている。
 デフォメとは、デジタル・フォトメーションの略で、高画質デジタルスチルカメラで連続撮影した実写画像を、アニメーションのように1枚1枚加工し映像化するという、この映画で始めて使われた手法。
 登場人物たちはカクカクとした不自然な動きを見せ、現実的で鮮明なデジタル写真による画面が、どこか非現実的な趣となって映し出される。
 この現実的、かつ非現実的な画面の色合いは、麻薬中毒者の眼差しであるとも言えるし、追憶をたどる脳内イメージであるともいえるだろう。
 (映画ライター・水島甲介)

 

 

 

チャンヘのプレゼントは「四季」 (C)2007 KIMKi−duk Film.
 

■ブレス(韓国)
自殺願望の死刑囚を訪ねる女

キム・ギドク監督の14番目の作品。私は第9作「春夏秋冬そして春」が最高作だと信じているが、今回の作品も見逃せない。
 ハンソン刑務所、極寒の刑房。妻と二人の娘を殺した罪で死刑を待つチャン・ジン(チャン・チェン)。死刑執行まで残り少なくなったある日、同室の若いイケメンが壁に絵を描くために鋭く尖らせた歯ブラシの柄で喉をかき切った。
 瀟洒な自宅でそのニュースを見た平凡な主婦ヨン(パク・チア)は、夫の浮気で狂い始めたのか、死刑囚に会いに行く。
 家族でもないヨンは、一度は面会を断られるが、保安課長(ギドクがヒッチコックを真似た?)の判断で許可される。
 自らの臨死体験を語ることで心の通い合ったヨンはチャンになにをしてあげられるかを考えた末「四季」をプレゼントすることにした。初回は、春服を着て、白い面会個室を花の壁紙で蔽い、ラジカセで「春」を熱唱するといった風に…。
 ところで、タイトルの「ブレス」だが、物語が進むにつれ、深い意味をもっていたことがわかってくる。冒頭、収監されている刑務所の4人部屋にいるチャンの暗くて重いブレス(息)。浮気がばれても、全く反省の色のない夫に絶望的になっているヨンのブレス、そして…。それぞれの吐くブレスの音がその心情や、おかれた状態を表している。
 チャン・チェンが一言のせりふもない難役を、目と表情の演技で見事にこなした。
 5月3日、シネマート六本木、池袋シネマロサほかその後全国順次ロードショー。
 (映画ジャーナリスト・長田いくお)

 
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