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日本にいる永住者なのに
新入国審査が始まって3カ月以上が経った。日本に入国する外国人に、両手人差し指の指紋の採取と、顔写真の撮影が義務付けられている。これを拒む者は入国することができない。外国人の日本国内からの出国にも、空港で同じ措置が取られている。旅行やビジネス目的の場合でも、日本に戻る際は、外国人として指紋を提供しなければならない。この新審査は、特別永住者を除くすべての人に適用される。拒否すれば、もちろん再入国は不可となる。在日韓国人の多くは、特別永住者も含めこの措置に対して大きな不満を持っている。(金総宰、溝口恭平)
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| 国境通過にバイオメトリスクが使われる時代。旅行者は何を思う(成田空港で) |
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在日韓国人は言う
韓国を往復するたび疑問 河さんの自問
新入国審査が始まった昨年11月20日以降、李明博新大統領就任式への参加を含め、河英子さん(50代。仮名)は、3回韓国を往復した。
入国ゲートで最初の指紋採取があった時のことだ。
「指紋押捺撤廃運動でせっかく押捺制度をなくしたのに、なぜ?」
複雑な気持ちになった。
2回目は12月だったが、テロ対策というのだから、理解するほかないと自分に言い聞かせた。
だが、出入国を重ねるたびに、やはり怒りがこみ上げてくる。
「再入国許可は下りており、指紋もすでに取っているのだから、新審査を適用しなくてもよいではありませんか」
新システムを変えてほしいと、河さんは訴える。
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理解できなくはない。一般永住者の河さんは、日本に住んでいるのだし、外国人登録も区役所にある。それを元にすれば済む話だ。適用外とされている特別永住者からも「再入国する人からは指紋を採らないようにしてほしい」という声が挙がっている。「特別永住者に実施せず、一般永住者に実施するというのは理屈が成り立たない」というのである。
河さんの率直な思いはこうだ。
「外国人に対しては全員に実施するというが、私たちはここで税金を払って住んでいる。国民ではないにしても、住民として認めてくれないと困る。テロが心配で指紋を採るというなら、自分の国の人からも採るべきだ」
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東京で焼き肉店を経営する河さんは、来日20年になる。研修生の資格から定住者の資格を得て、10年ほど前、永住権を取得した。焼き肉店のほかに、韓国の食を広めようとキムチの移動販売の会社も経営している。「外国に来ては苦労しなければ成功できない」と、朝九時から深夜3時まで働く毎日だ。順調な経営を認められ、銀行融資を受けられるようにもなった。焼き肉店は六軒まで増えた。
「一所懸命働いているし、銀行にも認められている。なのに、なぜ、そんな私がテロ対策の対象になるの?」
韓国人にかぎらず、河さんのように新審査に疑問を深くする外国人は多い。
何度も採るのは失礼でないか Aさんの場合
韓国人団体役員のAさんは、ソウルから日本に戻るとき、空港の混雑ぶりに驚いた。いつもであればそれほど混まなかった審査台前に人々が長蛇の列を作っていた。以前なら、外国人登録証を持っている人は、「日本人」の列に並んで手続きすることができた。Aさんは「外国人」側の通関の列があまり長いため、「日本人」側の列に並んだ。
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順番がきて、パスポートを審査台に出した。すると、外国人登録証明書を見せろと言われた。出入国時に外国人登録証を提示する必要はなかったはずだ。首をかしげながらそれを出すと、今度は、両手人差し指の指紋を採られた。さらに、「こっちを見てください」と言われた。写真を撮られたのだ。
Aさんは留学生として来日し、97年、「人文知識国際業務」という在留資格を得た。日本人の夫と安定した在日生活を送っている。結婚6年、在日20年。日本国籍を取る意思はないが、韓国人として日本に永住することを心に決めている。なのに、「日本に帰って来た途端、指紋を採取されるのは考えさせられてしまう」と、突然、在日生活に不安を覚えるようになった。
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「商用で海外に出かける人は多い。ITシステムが発達しているのだから、日本政府は1回指紋を採取した人には、コンピューター上で処理できるようにしてほしい。何度も採るのはよくないと思う。日本に住んで何十年もなる人に対して指紋を採るのは失礼でないだろうか。私たちは犯罪者ではないのに。人権を無視している」
「テロ対策」を理解しないわけではない。昨年7月、東京の米国大使館でビザ申請した際、10指の指紋採取と顔写真を撮られた。面接では「どこに行きますか。何をするのですか」と2回、質問された。どこの国でも同じことをするのかと思い、テロ対策なら致し方ないと思った。
昨年オーストリアへ行った時だ。ヨーロッパはまだ、出入国に関する新しい法律はなかった。オーストリアでは指紋採取は実施されていなかった。フランス、ドイツを回ったが、そこでもなかった。7カ国を回って、外国人として扱われたのは、オーストリアで電車に乗った時、“チェックポイント”を通過する際、入管の係員が来てパスポートにスタンプを捺したくらいだった。
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日本にはじめて来た時は、区役所に登録し、右手人差し指の指紋を捺しただけだった。その後指紋押捺はなくなり、今は署名で済んでいる。
「インターナショナルな国として平等主義を実践する国なのだと思っていたのだが…」Aさんの不満と疑問は尽きない。
「善良な人を守るためだ」
米国は面接で人物判定 Tさんの評価
「私はやむを得ないと思っている。テロという予期しない事態に対応した措置なのだから。これは世界的な流れだ」
永住者として日本に40年以上住む会社顧問のTさん(70)は、新制度の実施に賛成している。
「米国への9・11テロがきっかけでできた制度じゃないですか。外から予期しない人物が入って来ることに管理体制を厳しくするのは当然でしょう」
Tさんは、「悪い人間」の方を管理しようとしたのが入管の従来の方針だとすれば、今度は「善良な人間」を守るために管理強化しようしていると評価している。
「別の思惑で外国人を統制しようとするのであれば、大いに問題だが、新制度は外国人の統制管理ということではないと思う」
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Tさんは1カ月前、米国行きのビザを取った。大使館では外国人登録をコピーされただけで、係員は指紋を採らなかった。その代わり、面接で詳細な質問を受けた。質問は宿泊予定先にまで及んだ。米国の招待者とのリレーションシップも面接の重要なポイントだった。米国に行く目的を、従来よりももっと明確に告げなければならなくなった。Tさんは、面接で人物を判定している米大使館のほうが合理的なのではないかと、最近は思うようになっている。
2007年 入管まとめ
生体認証 128人に上陸拒否 不法残留は15万人
2007年1年で、日本における外国人の上陸拒否数は1万424人で、前年に比べ986人(8.6%)減少した。
そのうち128人は、昨年11月20日から始まった入国時の指紋採取によって上陸を拒否された。法務省入国管理局が先月29日発表した。
過去五年間の上陸拒否者数をみると、2003年は9806人であったが、04年に1万人を超えてからは、07年まで1万人台前半で推移している。
日本における不法残留者総数は1月1日現在、14万9785人で、前回調査時に比べ2万1054人(12.3%)減少している。
不法残留者総数を男女別にみると、男性は7万6378人(構成比51.0%)、女性は7万3407人(49.0%)であった。前回調査時からの減少も、男性は1万507人(12.1%)、女性は1万547人(12.6%)と男女同様の状況となっている。
国籍別にみると、不法残留者が最も多かったのは韓国で3万1758人(構成比21.2%)、次に中国が2万5057人(16.7%)、フィリピンが2万4741人(16.5%)となっている。上位10カ国(地域)の不法残留者数は、前回調査時からすべて減少している。なかでも、フィリピンは3750人(13.2%)の減少で、減少数は韓国の4563人に次ぐ結果となり、昨年の第2位から第3位となった。
在留資格別に不法残留者をみると、「短期滞在」が最も多く、10万2069人(構成比68.1%)、次に「留学」が6667人(4.5%)、「興行」が6624人(4.4%)となっている。前回調査時に比べ、「短期滞在」は1万5220人(13.0%)、「留学」は781人(10.5%)、「興行」は1538人(18.8%)とそれぞれ減少している。
2007年における出入国管理及び難民認定法により退去強制手続きを執った外国人は4万5502人であった。前年に比べ1万908人減少している。退去強制された外国人のうち、不法残留者は3万5417人、不法入国者は7454人であった。出国命令制度の対象となった不法残留者は9695人であった。国籍別では五年連続で中国が最も多かった。
同省入国管理局は、「2004年からの5年間で、不法滞在者を半減させる」とした政府目標の4年目となる2007年も、引き続き、厳格な入国審査や関係機関との密接な連携による摘発など、総合的な不法滞在者対策を展開した結果、その減少数は4年間で6万9633人となったと説明している。
日本の一般永住者は40万人
1年に5万人増える
2006年末の日本の一般永住者数は39万4477人に上る(法務省入国管理局)。新規永住権者は年々増加している。一般永住権取得者数が多いのは、中国・ブラジル・フィリピン・韓国・ペルーの順だ。06年末の一般永住者の国籍別数(上位4位)は次のようだ。
中国 11万7329人
ブラジル 7万8523人
フィリピン 6万225人
韓国・朝鮮 4万7679人
永住権新規取得者を年度別に見ると、下の通りだ。
2006年 5万1538人
05年 3万9256人
04年 4万8263人
03年 4万6171人
02年 4万2085人
2006年末の特別永住者数は44万3044人で、一般永住者と特別永住者を合わせた永住者総数は83万7521人となっている。
日本の総人口は2006年3月末で1億2705万人(住民基本台帳に基づく調査)。永住者総数は日本の総人口の0.65%にあたる。
日米の違い−国内居住者の処遇
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| 米国の入国審査風景(カリフォルニア州北部、シリコンバレーの中心にあるサンノゼ国際空港) |
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永住者から嫌われる新制度 日本
法務省入国管理局 「こちらにはこちらの事情が」
廃止された指紋押捺と同じ土台で語れない
新入国審査制度に対する在日韓国人の不満のひとつは、永住者にたいする指紋採取にある。
新制度で、生体認証手続きが免除される外国人は、16歳未満、戦前からの居住者と子孫である特別永住者、外交官と家族などとなっている。
米国では、永住者に対する生体情報採取は行っていない。審査対象に含めようとする検討がなされているとも伝えられるが、明らかでない。
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新制度の経緯について、法務省入国管理局は説明する。
「紛失したものや、盗まれたパスポートを悪用し、他人になりすまして入国するというケースが多く見られる。指紋提供してもらえば本人であるかどうか判る。過去に送還歴のある人が(入国禁止期間内に)入国しようとしても、写真と指紋を送還のさいのデータと照合するので、不法な入国は防ぐことができる。留学生や、日本人配偶者がいる人など、再入国許可を持っている方も指紋提供の対象になっている」
入国する外国人の指紋と照合される生体データは、(1)日本の警察の保有する指名手配者データ、(2)ICPO(国際刑事警察機構)の国際指名手配者データ(=(1)と(2)合わせ、約1万4000件)、(3)入管の保有する送還経歴者(要注意リスト)たちのもので、およそ80万件に上っている。
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在日韓国人らの不満である「米国は永住者を指紋採取の対象から除外しているのに、なぜ日本では指紋を採取するのか」という点についての本紙の質問に、法務省入国管理局はこう答えた。
「日本には日本の事情がある。再入国許可の印や外国人のパスポートを偽造して、日本に入国してきたりするケースがかなりある。アジアの国の人が多い」
入管当局は、永住資格を持つ人々にも警戒の目を光らせるようになった事情を言う。
「永住者のパスポートを持って入国する人のなかには、他人になりすましている人もいる。“日本人配偶者”資格を持っている人は、資格取得から3年で永住権が得られる。そういう永住者のパスポートは他人に渡りやすく、悪用される場合が多い。本人になりすまして入国するケースが増えるわけで、永住資格者に対する信頼を損ねかねません。特別永住者と永住者とでは日本に在留する歴史的な背景が違う」
南北離散家族問題に関わった在日韓国人の話は興味を引く。
「不法入国者のなかには、日本で働いてカネを貯めるということ以外に目的を持つ人たちがいる。彼らは偽造パスポートと外国人登録を持っている。生体情報でないと見破れない。そうしたケースを取り締まる必要に、日本の当局は迫られているのでないか。戸籍謄本を日本人から買い、日本人のパスポートで入ってくる人もいる」
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外国人登録での指紋押捺制度は九九年に廃止されている。
多くの在日韓国人が感じているのは、入国審査とはいえ、撤廃されたはずの指紋押捺がなぜ復活したのかというところにあるだろう。「テロ対策」という理由があるにせよ、人々はなお判然としていない。
「外国人管理の方はサインと写真で同一人性が確認できるので指紋を廃止した。今回の目的はまったく別で、テロ対策にある。同じテーブルに載せて話すことに無理がある」
法務省の担当者の説明だ。
永住者を除外する米国
在日米国大使館 「理由は言えない」
06年から10指採取 テロ抑止へ制度強化
2004年からUS―VISIT(外国人に対する生体情報提供の義務)を実施している米国では、自国の永住者が再入国する場合に限っては、生体認証を求めていない。
東京・赤坂の在日米国大使館の担当次官は、「入国時の永住権保有者の指紋採取は行わないとしたのは、国土安全保障省の決定だ。理由ついては分からない」と述べた。
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US―VISITの内容は次第に厳しくなっている。
在日米国大使館の説明によると、テロ対策として「指紋・顔写真を採取するUS―VISIT」が実施されたのは2004年1月。当初は、米国のビザ所持者のみが対象だった。同じ年の8月からは、ビザ申請のさい事前に生体情報採取の措置が実施され、同翌9月末から査証免除で入国する日本人を含めた27カ国の入国者が対象となった。
さらに04年夏から、出国時、指紋、顔写真を採取するなどの措置が取られ、本格的試験運用が開始されている。入国および出国する外国人の生体情報を照合させ、オーバーステイしている外国人を割り出すのが目的だった。
米国での外国人指紋採取は、9・11事件から五年が経過して明らかに変化した。06年秋から、米国を初めて訪問する外国人に対し、両手の全指紋を採取することになった。それ以前は両手人差し指に限られていた。
米国DHS(国土安全保障省)のチャートフ長官は06年9月、ワシントンで講演し、「US―VISITを08年末までに、空港などすべての入国地点で実施する」と、制度強化の方針を明らかにした。両手のすべての指紋を採取することで、テロリストの識別をより容易にし、テロに対する抑止効果を上げるという理由からだ。
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指紋採取の制度は初め、ビザを発給する在外公館でのみ導入されたが、今年末までに全米の地域で実施されることになる。
だが、たとえば日本での場合、指の指紋を消して入国を試みるというケースがあった。生体認証に必要な情報を、指紋にとどまらず眼の網膜などに求める時が来るかも知れないと、日本の入管関係者は話す。
EUも導入計画発表
域外からの旅行者対象
新入国審査システムはEUでも採用される見通しだ。
EU(欧州連合)の行政執行機関である欧州委員会は、テロ警備と不法移民管理の強化を目的に、EU域外からの旅行者に指紋の採取を義務づける計画を2月13日、明らかにした。
2004年に提唱された法案を検討してきたもの。
計画が各国政府と欧州議会に承認されれば実施することになるという。
導入が正式決定されれば、加盟各国で同一の生体認証システムが順次採用されることになる。
個人から得られる指紋データなどの生体情報は、独立行政機関により管理されると伝えられる。
EUの計画は、入国時に指紋を採取し出国時に照合するシステムになる可能性が高いといわれているが、実施までには1年以上の期間が必要とみられるという。
2004年に提唱された案では、外国人が取得するビザや在住許可証に指紋認証システムの採用を求めていた。
外国人だけでなく、加盟各国が発行する域内の市民のパスポートにも認証システムを採用するという内容と伝えられていた。
不穏な時代の新しい国際法
元東京入管局長 坂中英徳さん
「この問題について発言する気はないが、一つだけ言えば、国際法が形成されようとしているということだ。国際慣習法というのか、新しいテロの時代にふさわしい国際法がつくられつつある」
こう話すのは、元東京入管局長で外国人政策研究所所長の坂中英徳さんだ。
「18―19世紀に国民国家が形成され旅券制度ができ、やがて査証制度が生まれた。9・11テロを契機に米国が、上陸のさい顔写真と指紋を求めた。パスポートだけでは外国に入れない制度だ」「イギリス、日本が実施し、ヨーロッパでも行われようとしている。オーストラリア、カナダも採用する。そのうち韓国、中国も実施すると思っている。国境はなくならない」
坂中さんは「(新しい入国審査制度で)不法入国を繰り返すリピーターがかなり抑え込まれている。テロリスト抑止に効いている」と力説する。
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