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2008年3月26日発行
 
編集余話 瞻星台
 
87分署   

 往年の読書好きには、エド・マクベインの「87分署」シリーズは懐かしい。実は日本の刑事ドラマがこの小説の影響をうけていたということをご存じだろうか。たとえば、シリーズの一つ「キングの身代金」は、映画「天国と地獄」の原作となった。マクベインの小説は、推理の仕方や捜査の筋を立てる手本となった▼マクベインは、ニューヨーク市警の実際の分署が86しかないのを見て、架空の「87分署」を設定したのだが、この分署、どうにも威厳がない。そこが、ストーリーの本筋よりもっと面白い。署内は市民の駆け込み寺のようにごった返し、刑事たちはけだるそうな顔をする。むせかえるようなリアルな描写は、読む者を引き込んだ。五社英雄の秀作「刑事部屋」(1965年)などは、おそらくはこちらのほうを参考にしていた▼刑事たちが、チームワークで難事件に当たる場面は半分を占めない。ほとんどは、一人ひとりが住民の苦情処理に追われ、取るに足りないケチな事件に振り回される。マクベインはそのあたりを大事にした。捜査に地域と日常を重ね合わさなければ、事件は現実として成り立たなかった▼今では「87分署」がモデルにされることはほとんどなくなった。やれプロファイリングがどうとか、キャリア、ノンキャリアがどうだとか。あるいはテロリストがどうしたとかというのが多い。刑事たちはシャープで、アグレッシブだ▼それはそれでいいと思うし、「通」好みと思うのだが、リアルではない。というより、「リアルな描写」というものを何か取り違えている▼春に公開される映画はその手のものが多い。映画だけならまだしも、本当の刑事までが現実離れしてしまった。今月、ある所轄の、こともあろうか地域課の刑事が、反抗的だと、少年に拳銃を向けた。「87分署」をもう一度読みたくなった理由だ。(H)

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