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2008年3月12日発行
 
編集余話 瞻星台
 
冥福を祈って

 『カンボジアの24色のクレヨン』(86年)という本がある。カンボジアの内戦がまだ激しかった頃、著者はカンボジア・タイ国境の難民キャンプでボランティア活動に携わる中、14歳の少年と出会った▼少年は救援物資で手にしたクレヨンで、難民生活や強制労働などの過酷な体験を絵に描いて見せた。著者は描かれた絵に胸を衝かれるが、少年は17枚の絵を著者の手に残してどこかへと消えた。本は、小さな目が見つめたカンボジアの素朴すぎるほどの記録だ▼敬服したのは、本が少年の1人称の言葉で綴られていることだった。「なぜ、ルポの手法をとらなかったのか」と聞いたことがある。「私たちはポル・ポトの何を知っているというの? あの子たちの何が分かって?」。著者が熱く語っていたのを思い出す▼『在外日本人』(94年)という本も注目された。世界40カ国で暮らす204人の日本人にインタビューし、まとめたものだ。著者はこの仕事で四年を費やし、生活資金のほとんどを使い果たしたという。これらの著作には彼女の生き方そのものが映し出されていたような気がする▼晩年は、ガンで死を宣告されながら、医療現場と、他の長期生存患者への取材を続け、『がん患者学』『百万回の永訣―がん再発日記』などの著作を残した。余命を知りながらの奮闘。できることではない。その仕事ぶりには誰もが息をのんだと伝えられる。本人はしかし、時間が刻まれるほどに、面もちは穏やかになり、目はなおとぎすまされていったと聞いた▼私はわずかに面識があった。10年以上再会する機会がないまま、今月4日、朝日新聞を通じて訃報に接した。衒うところがなく、「永く読まれる作品をこそ」といつも言っていた。最後まで自分を投げ捨てることのない作家だった。柳原和子さん、心からご冥福を祈ります。(M)

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