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チベットで何が(1) 祈りと抵抗と
奪われる自然と生活、そして自由
NHKが「青海チベット鉄道」を放映したのは2007年1月だった。好評を博した。
西寧発ラサ行きの列車内の豪華なようすや、まさに天空を行くがごとき車窓の眺めにため息をもらした視聴者は多かったにちがいない。
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インド・ニューデリーで反中国スローガンを叫ぶチベット僧侶=EPA・聯合 |
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映像は、「鉄道ができて、私たちの暮らしもよくなる」と語るチベット人たちの表情を捉えることも忘れなかった。
鉄道開業によせて胡錦濤国家主席は言ったものだ。
「チベット自治区と青海省の経済社会発展や、各民族の生活向上、民族団結と辺境防衛の強化にとって、とても大きな意義がある」
朝日新聞は、「“世界の屋根”に一番列車」という見出しで、「中国からの分離・独立運動が根強いチベット自治区を中国で唯一の鉄道空白区から脱却させたことを、党中央はチベットとの距離を縮める絶好の機会ととらえている」と書いた。
日本に留学中のあるチベット人学生はこうつぶやいた。
「中国政府の広報みたいだ」
留学して3年になる。日本のメディアを訝しく思った。「むしろ、チベット人と華人の距離は広がった。日本の大メディアになぜそれが見えないのか」
「夢の鉄道」と日本人や韓国人は言う。列車は多くの人と物を運んだ。観光客はチベットに殺到した。新華社通信は、その数は前年比で60%増の約400万人に達したと伝えた。
「48億元(約720億円)の収入を上げ、チベット自治区を支える一大産業に成長した」とは、向巴平措チベット自治区主席(中国共産党西蔵自治区委員会常務副書記)の言葉だ。
香港のジャーナリストたちは「チベット人の手に入るものはほとんどない」と見ている。観光客として昨年夏、その鉄道でラサに入った一人は、「私たちに、それは、さほど必要ではない。これまでの生活が壊されなければそれでいい」という現地の声を拾った。それは、チベット人のささやかな主張であったのであろうが、NHKや朝日新聞の伝えるラサの賑わいとはまったく異なる顔をそこに見つけることはできる。
07年2月16日付の人民日報は、中国人の無数の列がチベットへと移動する光景を伝えている。彼らは、多額の資金と、一方の手にホテルやレストラン、土産店の経営権、観光開発権を得てチベットに入ったという。
ダライ・ラマ14世は07年3月、亡命先のインド北部ダルムサーラで行った演説の中でこう述べた。
「鉄道の開通で多くの漢族が同地区に流れ込んでいる。チベット民族の文化や地域の自然がおびやかされることを懸念する。営利目的の地域開拓は水や自然を汚染し、土地と人々の生活を破壊するものだ」(AFP)
名ばかりの「自治区」
チベット首都ラサの人口は、チベット人14万人余りに対し、漢族は20万人を超える。鉄道開業によって人口比は逆転した。「自治区」とは名ばかりのそうした状況は、延辺朝鮮族自治州や新彊ウイグル地区、その他少数民族地域ですでに現れていた。
「チベットも、満州族のように溶けて消えてしまうのか…」
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ニューヨークの中国領事館前。中国政府に怒りをぶつける人々=AP・聯合 |
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四川省アバ・チベット族チャン族自治州のある知識人が電話インタビューに力無く答えた。彼は2月、家宅捜査を受けてダライ・ラマの写真を差し出した。「分裂主義者と手を切ったのは革命的だ」と、公安当局からほめられた。
青海チベット鉄道で得る中国の利益はそうしたことばかりではないだろう。人民日報は「鉄道は中国の鉱石開発の経済を変えるだろう」と書いた。その理由は「以前より簡単かつ安く輸送できるようになる」からだ。スズ、鉛、亜鉛、ウラン…。チベット地区に手つかずの膨大な鉱脈が眠っている。鉄道の開発は、それらの資源を運ぶことを目的に練られもした。中国政府は認めている。むろん、チベット人に採掘権が渡ることはない。「人民全体の利益」を謳う国家プロジェクトだからだ。
青海チベット鉄道が、中国のチベット問題にどれほど大きな影響を及ぼしているか、私たちの目には、はっきりとは分からない。ただ、在日チベット人の少なからぬ人々が、NHKや朝日新聞などが中国政府の謳い文句と寸分違わぬ報道をするのはなぜかと、首を傾げているのは事実だ。
チベット問題への影響を最も心得ているのは当の中国政府なのだろう。昨年11月、AP通信は、「開業2年目を迎える青海チベット鉄道が中国軍部隊を初めてチベット自治区ラサに輸送した」と報じ、空路、陸路に替わる主要な軍事輸送手段になるとの人民解放軍当局者の発言を伝えた。
チベット観光が脚光を浴びる一方で、チベット人の宗教、政治の自由は依然、奪われていた。僧侶たちが、連日、ダライ・ラマを批判するよう中国当局から脅迫されていた事実をアムネスティは明らかにしていた。
そして、08年3月14日、ラサでついに「暴動」が発生する。
(編集委員・梁基述)
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