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ドイツ人登山家が見たチベット
オーストリアの登山家、ハインリッヒ・ハラーの自伝を映画化した。
ハラー(ブラッド・ピット)と若き日のダライ・ラマ14世(ジャムヤン・ジャムツォ・ワンチュク)の交流を描いた作品は、中国で上映禁止となった。主演のブラッド・ピットと監督のジャン・ジャック・アノーは、中国への立ち入りを永久に禁止された。
北京政府が見せたくなかったチベット。なるほど、映画は中国側の逆鱗を買うほど、現代チベットの悲劇の始まりと、チベット事情の内側に迫っているが、政治的テーマは薄い。
乱暴にキリスト教と仏教を対比させたり、欧米人が簡単に“東洋の神秘”に傾倒してしまったりというような、従来のハリウッド映画に見られるような無駄な演出はいっさいない。チベットの自然と、そこに融合したラマ教の文化、そして幼くしてチベット仏教の最高指導者に就いたダライ・ラマ14世との交流が、ハラーの偏見を取り払う。その過程で、観る者の先入観もいつしか取り払われていく。
隅々までチベット仏教と融合した文化、生活それ自体が非常に面白く、秀逸だ。
「前世であなたの母親だったかもしれない」と、工事で掘り返されたミミズを丁寧に埋めなおす人々の姿や、「私達の理想は自我を捨てること」というチベット人女性の言葉にチベット人の死生観の一端を見た思いがする。中華思想からほど遠いチベットの姿が延々と描写されている。
映画は、人民解放軍によるチベット侵攻でインドへの亡命の道につくダライ・ラマとハラーの別れで終わる。2008年現在に至るまで続く現代チベットの悲劇の始まりだが、それはメーンテーマではない。
そこが公開から10余年経ってなお色褪せない作品の理由となっている。 |