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何気ない路地裏の1枚、ここに生きる人たちの声が聞こえてくるようだ |
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君が誰でも、どんなに孤独でも 金衍洙(キンヨンス)著
歴史にのみ込まれすり変えられてゆく人生
一冊の忘れがたい本にであった。この小説で、主人公は一枚の写真と一本のビデオテープにであう。携帯、メールよりも、銃撃、手榴弾という言葉が身近な学生時代を送り、統一、民主化の学生運動の只中、自己の偶然の存在に虚無感を抱いた主人公は、1991年、恋人を残し学生運動の偽装活動家としてベルリンに向かう。そこで衝撃的なビデオを目にすることになる。
光州抗争の後、全南道庁前で焼身自殺を図った男の共謀者として逮捕されたイ・ギリョンの独白テープ。凄絶な拷問の末、出所後はカン・シウと名を変え学生運動陣営の英雄に祭り上げられたこの男に、やがて主人公はビデオと写真に導かれてであう。カン・シウも、ガス室に向かうユダヤ人のために演奏していたベルリンの家主ベルクも、名前すら変え、過去を切り捨てなければ生きていけない苦痛を経験している。個々の人生が歴史にすりかえられた時代。主人公はそれを拒否して自身の道を選択していく。
偶然に歴史の中にいたおびただしい個人の話が次々と重ねられるが、主人公やカン・シウ、カン・シウと結婚する在日のレイも、父や祖父の時代にさかのぼってどこかで関係しあっている。まるで遠く離れた星々が結びつき一つの星座をなすように。ぽつねんと浮かぶ存在にしか感じられなくても、どこかでつながっている。韓国、日本、ドイツ、それは場所も時代という時差も超える。どんな苦痛の中にいてもだ。
何度も戻っては言葉を反芻した。すらすらと読めなかったのは韓国の読者も同じだったようだ。両親が日本で生まれ、主人公と同じ80年代に青春を過ごしたキム・ヨンス氏が示す新しい歴史感覚は、忘れがたい衝撃で新たな意識へ導いてくれた。
よしはら・いくこ 翻訳者
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