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政権替わっても 変わらぬ米国の姿勢
ブッシュ大統領は1月28日、一般教書演説を行ったが、北朝鮮に言及することはなかった。米国の対北政策は誰もが思うようにやはり軟化したと見るべきなのか。あれほど強硬姿勢を取ってきたブッシュ大統領の考えは変わったのか。
金正日を「悪の枢軸」と名指しした02年から、北朝鮮の核放棄を強く迫るブッシュ大統領の姿勢は変わることはないと見られていた。
ところが、05年を境に「金正日は外交によって(諸問題を)解決しなければならない」などと、トーンダウンしはじめた。今や米国の北朝鮮核問題は「失踪した状態」にあると、ワシントン・ポスト紙は断言した。
文字どおり「一般教書」演説だけに、ブッシュ政権の対北政策の真価を見極めるのは難しいが、ブッシュ大統領は、北朝鮮を恐れたわけではないだろう。ワシントンが最も恐れているのは、「核の拡散」だ。対北政策の中心課題は、これをどう防ぐかというところへシフトしている。ヘンリー・キッシンジャー、ジョージ・シュルツ、ウィリアム・ペリーなどは「徹頭徹尾、核問題を解決しなければ世界は滅ぶ」と警告している。
「核クラブ」と呼ばれる核保有国は増えている。現在世界に拡散した核兵器は、七万発に達する。
NPT(核不拡散条約)の認める核保有国(米・露・中・英・仏)以外に、インド・パキスタン・北朝鮮が核を持つ。中でも、ブッシュ大統領が“ならず者国家”と呼ぶように、北朝鮮による核拡散は、米国が最も恐れる事態だ。この北朝鮮に対する米国の警戒態勢は、共和党政権であろうと民主党政権であろうと、今後さらに強化されるほかない。そのための対策をブッシュ政権はこの間練っている。07年末までに核プログラムを完全申告するという約束を北朝鮮が再びほごにしても、米国は必死に怒りを抑えている。北朝鮮に制裁を加えても、核拡散は防げないと判断しているからだ。
北朝鮮は「テロ支援国家」リストからの除外を求め、米国はなかなか首をたてにふらない。北朝鮮が世界のテロリストたちと関わっていることを、米政府の姿勢は示唆している。
ブッシュ政権の対北政策のカギを握っているのは中国であることに変わりはない。ブッシュ政権は北京オリンピックが終わるまでは、忍の一字で北朝鮮を甘やかす六カ国協議を維持する。
中国と北朝鮮が「唇歯の関係」(互いに利害関係が密接なこと)にあることを熟知する米国は、中国を通じて北朝鮮を再生・調整しようとしているからだ。中国は米朝間に入ることで、より多くの成功と国益をオリンピックで得ようとしている。北朝鮮は、大国に挟まれながらもキャスティング・ボートを握ることで、実利を得ていることもまた明らかだ。
北朝鮮は、少なくとも2009年の下半期までは米国との核外交のような手法で生きながらえようとしている。ブッシュは2009年1月20日に退陣する。新政府が発足し、体制を備えるまで、半年近く要すると北朝鮮は見ている。
金正日はその間、軍事的な駆け引きを仕掛けるだろうと国防総省筋は見ている。米国の大統領選挙の成り行きを金正日は見守っているのだ。
米国大統領選挙は、本格的に始まっている。2月2日現在、アイオワ州、ワイオミング州、ニューハンプシャー州、ミシガン州、ネバダ州、サウスカロライナ州など、7つの州で予備選挙が行われた。民主党候補はヒラリー・クリントン上院議員とバラク・オバマ上院議員に絞られ、共和党候補はマケイン上院議員とロムニー前州知事に絞られたといっていい。
24の州で予備選が行われる「スーパー(メガ)チューズデー」(2月5日)が終われば、米国50州の半分以上で与野党の候補者が決定する。その後の予備選で結果は変わるかもしれないが、2月5日の予備選挙は大きな分岐点になるのは間違いない。
共和党のマケイン候補や民主党のクリントン候補が党の有力候補になった場合、「核兵器の撤去」、「朝鮮半島の非核地帯化」という従来の政策に変化が訪れることはないだろう。
ウォールストリート・ジャーナルは、民主党のオバマ候補はマイノリティーであるから「数字的な限界」を超えることはできないと指摘したことがある。クリントン候補は女性であることとクリントン元大統領の夫人であることがネックになる。イラク戦争で批判されている共和党候補であっても勝算があるとみる人は意外と多い。
最近になって、ベトナムで六年も捕虜生活を送り、イラク戦争を強力に支持してきたジョン・マケイン候補の支持率が高まっているのも、非常に興味深い。
1月22日、李明博次期大統領の特使としてワシントンを訪れた鄭夢準特使は、ブッシュ大統領、チェイニー副大統領、国務省のネグロポンテ副長官に会った。異例の出来事だ。
鄭特使が会った3人は、現在、ネオコン(新保守主義)を支えた対北強硬派の3巨頭と呼ばれている。鄭夢準氏が彼らと会ったことは、李明博政権がどこに向かおうとしているかをうかがわせる。そういえば、李明博氏もまた、韓国における新保守主義のリーダーだ。
ブッシュの口から消えた「金正日」「北朝鮮」
今年の一般教書演説。ブッシュ大統領の口からは、「金正日」という言葉も「北朝鮮」という言葉も出なかった。
ワシントン・ポスト紙は1月31日、「金正日 悪魔が失踪兵となった」(KimJong―Il:From‘Evil’to‘MissingInAction’)という見出しの記事で、ブッシュ政権の対北政策が変化したと指摘した。
ブッシュの対北政策の変化をこれまでの一般教書演説から見てみると、ポスト紙の言うように、「悪魔がブッシュの目から消えた」ように映らなくもない。
2002年、演壇に立ったブッシュは眉間にしわを寄せていた。
「北朝鮮は人民を飢餓に追いやりながらミサイルと大量破壊兵器でアメリカを狙っている」
翌03年、ブッシュは再度北朝鮮を批判する中で、初めて北朝鮮の核兵器保有の動きに言及。
「90年代にかけて、アメリカは北朝鮮が核兵器を保有しないよう、話し合いを行ってきた。しかし今、北朝鮮は世界を裏切ろうとしている」
北朝鮮の核保有に対し、厳しく迫った演説は、03年が最後になった。
「アメリカは、世界で最も危険な兵器を最も危険な政権の手には渡さない」
04年の演説は、口調は激しいものの、直接北朝鮮に言及する言葉はなかった。米紙は対北政策への軟化と捉え、軟化した裏には、イラクでの戦況悪化があったと見ていた。以後、ブッシュ大統領の一般教書演説から対北強硬姿勢は影を潜めるようになった。
「我々は北朝鮮に核への野心を捨てさせるため、アジア諸国と緊密に協力している」(05年)
「世界の半分以上が民主主義国家に住んでいる。我々はもう半分の人々を忘れてはならない。正義への欲求と世界平和は彼らの自由を必要とするからだ」(06年)
北朝鮮は06年10月9日、地下核実験を行った。この3カ月前にはミサイル発射実験を行っている。国際社会が北朝鮮に厳しい態度で臨んでいた中での実験だった。
ホワイトハウスではこの頃から、ネオコンなど対北強硬派と、融和策を主張するライス国務長官らの暗闘が始まり、そして、ネオコンはほぼ政権を去ることになる。
一般教書演説で、ブッシュの口から「北朝鮮」の言葉が消えたのは翌07年からだ。
ブッシュが、中東に悩まされ、政権内の意見調整に追われているころ、ポスト紙の言うように、アメリカが照準を定めていた北朝鮮の兵舎から、金正日はまんまと消えうせたということだ。
(溝口恭平)
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