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2008年2月6日発行版
 
韓国スポーツ事情・女子ハンドボール
伊東順子
 
 

「割にあわない苦労を、なぜするの」

 このコラムが活字になっている頃には、もう結果が出ているだろう。北京オリンピックのアジア予選。これまで日の当たることのなかったハンドボールが注目され、にわかファンも増えたと思う。
 「日本と違って韓国ではハンドボールがメジャーなのでしょう? だからそんなに強い」

映画「私たちの生涯で最高の瞬間」は実話をもとにして作られた
 

 たしかに韓国のハンドボールは男女ともに強い。女子は6回連続でオリンピック本戦に出場し、金メダル2個に銀メダル3個。1976年以来本選進出がない日本女子とはずいぶん違う。
 ただ、メジャーかというと、それはまったく逆だ。日本と同じ、いや、それ以下かもしれない。何しろオリンピックの金メダリストが、仕事にあぶれてスーパーの特売場で野菜を売っているぐらいなのだ。
 1月に封切られた「私たちの生涯で最高の瞬間」(イム・スルレ監督)はアテネで銀メダルをとった韓国女子ハンドボールチームの実話をもとにしている。ムン・ソリが演じる主人公ミスギの所属チームが解散、仕方なく親会社のスーパーで働くところから物語は始まる。彼女は3回連続オリンピック出場、そしてバロセロナの金メダリストである。

 ところで韓国では、スポーツ関連の映画やドラマは非常に珍しい。日本では定番の「スポーツ根性もの」というジャンルがないのである。理由はいろいろ考えられるのだが、もっとも大きいのは中高生の「部活」がないことだと思う。スポーツ選手のほとんどは「選ばれた人」で、彼らの「汗と涙の青春」は一般人には共感されにくい。かといって旧社会主義国のように、「選ばれた人」の生活を国家が保障するわけでもない。
 「割にあわない苦労を、なぜする?」。そんな疑問が映画の出発点だったとイム監督は語る。また映画は「韓国女性の物語だ」とも。別世界だと思われがちなスポーツ選手も、一人一人、女性としての物語を抱えていた。そこへの共感がヒットにつながった。
 よって、映画は普通のスポ根ものとは様相がちがう。日本風のライバルも登場しないし、ハリウッド式のカタルシスもない。19回の同点、2回の延長、そしてPKと、当時AP通信が「アテネの十大名勝負」に選んだ決勝戦の再現シーンも、予算がなくて外国人観客のエキストラを動員できなかった。だからもっぱら、選手寄りのカットが中心になっている。
 ところが、これが感動的だ。主役のムン・ソリがもちろんのこと、これまでドラマのアイドル女優風だったキム・ジョンウンが予想外にいい。彼女たちの表情がいいから、韓国式スポ根(おそらくこの映画をもって確立した)独特の「物語」が生きる。
 映画は十分面白い。ただ一つだけ残念なことといえば、ハンドボールというスポーツそのもの面白さが今ひとつ伝わってこない。おそらく制作する人々がスポーツの楽しさをあまり知らないのだろう。やはり「部活」がないから?
 その意味では日本は恵まれていると思った。私自身も含め、才能がなくてもスポーツをやらせてもらえるのだから。(ジャーナリスト)

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