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2008年2月27日発行版
 
映画 CINEMA VIEW
 
 

黒い土の少女(韓国)  芸術性は高く、テーマは「反韓流」

 ことしも2つの韓国映画上映イベントがぶつかり合う“韓流春の陣”が3〜5月、東京で繰り広げられる。スターを重視した編成が売りの「韓流シネマ・フェスティバル」に対し、韓国映画振興委員会(KOFIC)の支援を得て昨年から始まった「韓国アートフィルム・ショーケース」(KAFS)は芸術性へのこだわりが特徴だ。しかも後者は「反韓流」を掲げるなど“対決色”を一段と鮮明にする。ともあれ一時のブームは去ったが、日本で韓国映画を見る際の選択肢が着実に増えていることを率直に喜びたい。

9歳の少女の肩に一家の生活が・・・
 

 KAFSの第1弾はチョン・スイル監督の「黒い土の少女」だ。監督は日本ではなじみがないが、長編デビュー作の「私の中で鳴る風」(3部作)がカンヌ国際映画祭「ある視点」部門に招待され、以後新作を発表するたびに海外の映画祭からオファーが寄せられる実力者。手法も都会のおしゃれなトレンディードラマとは無縁の、時代や社会からも疎外された炭鉱の街を舞台に、少女の孤独な日常と内的成長をじっくり描く地味な作品だ。
 それでいて見るものの心を強くとらえて放さないのは、細部にまで目配りが効いた脚本と監督の並々ならぬ演出力の賜物だろう。
 舞台は高度経済成長から取り残され、鉱山閉鎖を迫られている江原道の村。9歳の少女ヨンリムは、炭鉱労働者の父ヘゴンと軽い精神障害を持つ兄を母親代わりに面倒をみるしっかり者だ。その父がじん肺を患い会社をクビになることから家族の転落が始まる。
 障害による退職の扱いを受けられず、さらに社宅を出た補償金で買ったトラックが事故を起こすと、大事な車を手放して弁済金を支払うことに。やけを起こし昼間から酒をあおるなど人が変わってしまった父にヨンリムは小さな胸を痛める。その少女が孤独と向き合い、さらに万引きまでしてしまうほど追い詰められていく様子が、ボタ山など荒涼とした鉱山を背景に淡々と描かれていくと、少女はまるで聖なる存在であるかのように輝きを増すのである。父や兄を救い、自らの苦境を脱する方法はないか。少女が実行した手段は驚がくすべき方法だった。
 小さいながら主演のヨンリムにはテレビで活躍する天才子役ユ・ヨンミがキャスティングされた。監督は見た瞬間、「この子だ」と思ったが、演じさせると感情をオーバーに出すドラマ用の演技のため、ドキュメンタリーのように抑える演技を指導した結果、「すぐに慣れ、期待以上にやってくれた」という。
 チョン・スイル監督は韓国の慶星大学で映画を学んだ後、パリの大学や大学院の映画学科を卒業。帰国後は映画制作の中心ソウルを離れ、釜山を拠点に一貫してインディペンデント作品を制作している。
 無名時代のソル・ギョングを「空中で止まる鳥」で初主演させるなど、スターとは無縁の撮影だったが、今作では初めて「シバジ」の名女優カン・スヨンを出演させている。
 「最初に登場するシーンでは、ヨンリムの幸せな時期を、またラストは逆に不幸な時期を遠くから他者の視線で見てもらいたかったのです。また母の不在や少女の成人した姿も投影したかった」
 次回作も「オールド・ボーイ」の大スター、チェ・ミンシクの起用が決まっている。これまでのどの作品より注目を集める可能性が高いが、「ギャラはほとんど出ません。インディペンデント作品として作ります」
 周囲の自身への注目度に振り回されることなく制作スタイルを貫くチョン・スイル監督。そして、一つのシーンにさまざまな意味を込める独特の演出法。その深化を次の作品でも味わいたいものである。
 3月8日よりシアター・イメージフォーラムでロードショー。「韓国アートフィルム・ショーケース2008」公式ホームページ:http://www.kaf‐s.com/
(アジア映画ウオッチャー・紀平重成)

花影(日本) 「在日」を題材に 食傷感あるが・・・

 在日韓国人3世の女性が主人公のラブストーリー。家庭を持つ日本人カメラマンとの不倫と、釜山で小学校教師をしている韓国人男性との恋愛を対比させ、主人公の二面性を浮き彫りにしたかったようだ。

韓国にいるときは素直な尚美に・・・
 

 主人公の五木尚美(いつきなおみ、山本未來)は、売れっ子のジュエリーデザイナー。本名は李イ尚サン美ミ。3世だからなのだろう。韓国とはまったくと言っていいほど無縁の生活を送っている。
 スクリーンには日本と韓国それぞれにいる主人公が映し出される。日本での彼女は、どこにでもいる「キャリアウーマン」だ。鼻っ柱が強い。ところが、韓国では実に素直だ。
 映画や小説に描かれる「在日韓国人」は、「在日らしさ」がよく強調される。過剰なほどで、いささか嫌気もさす。ドラマの興をそぐほど現実離れした作品も少なくない。花影の場合は、それらとは異なり、一見、日本人と寸分違わない「在日3世」を見せてくれる。
 ストーリー自体は、どこかで見聞きしたような話だ。2人の男性の間でゆれる女性、自分が傷ついたときに見えてくる本当に大事なもの…などと言いたげで、映画解説するのもつい恥ずかしくなるような内容だ。テンポの良さがなければ、観る者に大あくびをさせただろう。
 台詞も悪くない。たとえば、不倫相手に料理ができないといわれて尚美が言う。
 「(妻という)肩書きをちょうだい」
 自分のアイデンティティーをどこに置くべきかで悩む在日韓国人3世の吐く台詞なのだと、穿ちすぎる評もあるだろうが、そんなシロモノではない。尚美が置かれた立場と彼女の性格がなせる台詞以上のものではない。ここまでは面白い。だが、映画の後半で、在日韓国人を主人公にしたがる人々の好ましくないクセが現れる。
 不倫相手との別れで傷ついた尚美が韓国に行くシーンだ。最初、ハングルの手紙を読むこともできなかった尚美が、釜山に向かう機内で、なぜか突然、流暢な韓国語を喋りはじめる。
 原作・脚本を手がけた市川森一は、「善悪の二面性」を書きたかったという。韓国語が話せるようになったことで、「尚なお美みが尚サン美ミになった」とでも言いたいのかはともかく、市川だけでなく、日本を描けば抜群の書き手が、こと韓国と「在日」をテーマにすると、途端に歯が浮くようなことを書き出す場合が少なくない。市川で言うなら、あの優れもの「幽婚」と、今回の映画の差だと言っていい。
 案の定、映画は終盤にかけて辟易するような演出のオンパレードだ。墓地に咲き乱れるサクラも、「王子様」のような韓国人教師の描き方も、すべてが仰々しい。韓国観光のプロモーションビデオを見させられているようだ。(文化部・秋一紅)
 3月8日(土)より、シネマート六本木、新宿ケイズシネマほか、全国順次ロードショー。


裸足のギボン(韓国)

「お母さんのために」ギボンは走る
 

 のどかな田舎に住むギボン(シン・ヒョンジュン)は幼少時、熱病にかかったのが原因で、年齢は40歳だが、知能は8歳のままだ。
 80歳になるお母さん(キム・スミ)が大好きで、お母さんが顔を洗うお湯を沸かし、買い物をし、貰った食べ物は早くお母さんに届けようと、靴も履かずに飛んでかえる。だから「裸足のギボン」なのだ。
 ある日、村で開かれたマラソン大会に紛れ込んで優勝してしまう。村長(イム・ハリョン)は「村のシンボル」として、次期選挙戦にも役立ちそうな「ギボン」を鍛えようとマラソンのトレーナーをつとめる。
 賞金でお母さんに入れ歯を買ってあげたいギボンは、一生懸命練習する。笑顔で走る彼を見ているうちに、村長は思惑を恥じ、純粋に応援をし始める。村民も盛り上がるが、その矢先、ギボンは心臓疾患で練習中に倒れる。村長は「命が大切だ」と、彼を突き放す。しかし、諦めないギボンは…。
 スポーツ根性物に「マラソン映画」は多い。しかし、挑戦する主人公がハンディキャッパーの場合、そう簡単に優勝するものじゃない。最後はファンタジーの世界に逃避してお茶をにごしたりするものも少なくないのだが、この映画は「真っ向勝負」母と息子の愛情をリアルに描いている。だからこそ、感動する。
 監督のクォン・スギョンは北京大学在学中に助監督として活躍。「アウトライブ―飛天舞」の助監督をしているときに知りあったシン・ヒョンジュンに企画を持ち込まれ、監督デビューを果たした。ドキュメンタルな展開を見せる演出は新鮮。今後の活躍が楽しみな監督の一人だ。
 3月8日から銀座シネパトスほかで封切り。
(映画ジャーナリスト・長田いくお)


名作アーカイブス われらの歪んだ英雄(1992年・韓国)
 「教室」から眺めた国と社会の風景、あるいは、小学生という小さな心に忍び寄る外界の気配と言っていい。少年時代から大人になるまで、30年の変化を子供の成長と共に見つめている。
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