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2008年2月20日発行版
 
わが同胞(はらから)の心象 葬送記−21−
金両基
 
 

死者の結婚式(2) 墓のない子供 先立つ不幸
2歳で逝った妹
こだわる死者の相性 人形に霊降ろし 結婚式

 父母の故郷であり原籍地である城隍里(ソナンリ、慶尚南道)で2歳ごろ亡くなったわたしの妹の墓はない。流行病で急逝した妹は葬式も行われず、母が管理していた山に埋められた。ある朝、叔父が白い布で包んだ荷物をチゲ(背負子)に背負って家を出て行く後姿をみたが、それが妹との最後の別れであったことを後に知った。2つ下のたいへん仲のよかった妹が埋められた場所を探し歩いた幼いころの行動がいまも蘇ってくる。

ムダンが死霊を降ろすと、感動した老女がチュモニから賽銭を取り出し、神竿に結ぶ。
 

 日本で生まれたわたしが2歳ごろ、妹を身ごもった母に連れられて父母の故郷に一時帰省し、妹は故郷で生まれたので父の顔も知らない。母が亡くなったいま、妹を知っているのはわたししかいない。族譜にも戸籍にも載っていないので名前すらしらない。なぜ葬式を行わなかったのか、その理由を母はいちども語らなかった。女の子であったから墓を作らなかったのかと思ったことがあるが、男の子であっても作らないことを後に知った。
 一人息子であるわたしが幼いころ亡くなっていたら同じように墓は作られなかったのである。その背景に親に先立った親不孝な子どもという慣習が強く影響しているようである。さらに女の子は族譜にも記載されず、嫁ぎ先の伴侶、夫の名前を記載しそこに嫁いだと記された。現代ならジェンダー差別、女性差別として非難されるが、女性に祖霊供養の資格を与えなかった時代、それが不記載の理由になったのである。そこからも男性中心の祭祀への深い思いが伝わってくる。
 たまたま静岡放送SBSの取材で釜山に行ったとき、人間国宝の金石出翁から死者の結婚式が同じ慶尚南道の七港という港で営まれるという話を聞き、SBSの取材陣を誘って現地に飛んでいった。それをふくめて30分の作品を作り放送したが、亡くなった未婚の未成年者は墓も作らないのに、死霊を招いて結婚式を行うクッ(巫ふ祭さい)がどのように行われるのかを自分の目で確かめることになった。
 死霊が自分の部屋に帰った悦びと懐かしさを母や親族に語りかけると、母や親族はむせび泣きから慟哭へとかわっていった。一人の老女が立ち上がりチュモニ(韓国の巾着)からお札を取り出して(写真(1))神竿に結び、死霊を癒す。その賽銭は祭祀者であるムダンの収入になるが、口寄せの上手さで賽銭の増減が決まるのでムダンの力量の見せ所である。
 死者の結婚式のクライマックスは口寄せの後に行われる新郎新婦の霊が の憑りうつっ た人形の形代(かたしろ)が向かい合って結婚式を行うシーンであるが、その前段である口寄せシーンの上手さでクライマックスの出来映えが決まる。ムダンは準備の段階で死者の死因、家族環境、生活環境を敏感にキャッチし、それらを参考にして口寄せが組み立てられるが、それは理屈ではなく霊感によって構成されてゆく。理屈では感動を誘発しないからである。そういう天性、霊感の持ち主がムダンになることが多い。

ムダンが片手に杯、片手に肴を持って献酒のために祭壇に向かう。
 

 青年は漁に出て遭難し遺体はみつかっていなかったが、遭難したときの様子が死に口で語られ、遺族に伝わってゆく。大きな波に飲み込まれて船が転覆し、海に飲み込まれた様子を伝え、親孝行もできずに死んだことを深く悲しみ詫びる。ムダンの語り口は息子の声に似せ、しかもドラマチックに語りかけられた母は結婚もしないで死んでいった子の運命を嘆き、慟哭する。ムダンを媒介とした母子の対話は涙無しには聞けないほど真に迫っていた。ドラマチックな口寄せが終わるとムダンは死霊に薬ヤク酒チュ(御お神み酒き)を捧げる(写真(2))。
 死者の結婚式は多くの場合水死した未婚の男性が対象のようである。行われているエリアも海岸地帯であり、漁労関係者に多い。花婿の家では未婚で亡くなった処女を花嫁候補に選ぶが、その情報を得てから生きている人と同じように2人のクンハップ(宮合・相性)をみてもらう。相性が悪ければ縁は結ばない。ルーツを共有する同姓同本は死者でも結婚できない。そして花嫁の死因はとくに問わないが未婚であることが条件のようであった。夫婦は添い遂げるという伝統を大事にする韓国人はクンハップに非常に拘る。クンハップが良ければ男の子が授かる確率が高いと考えられ、それは一族一家の繁栄に直結させる至幸を求める伝統として培いはぐくんできた。
 口寄せが終わるとムダンは死霊を花婿と花嫁に扮装した人形に招く。それぞれの身内が死霊の形代になった人形を手にかかげて飾られた座卓越しに向かい合い、式が行われる。

キム・ヤンギ 比較文化学者


 
 
 
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