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2008年1月23日発行版
 
シリーズ 08年 「在日」事情 第3回 結婚
 

時の流れと 抗うこころと・・・
こだわり消える国籍  “帰化”に揺れ 挙式前に生まれた葛藤

 在日韓国社会は3世、4世の時代へと移り変わりつつある。世代交代の波と言っていい。これをシンボライズしていることの一つに、若者たちの結婚観がある。国籍などの形にこだわらず、躊躇なく国際結婚を選ぶ人たちの姿が顕著となった。一方で、「同胞同士」の結婚に、依然こだわり続ける若者たちも決して少なくはない。
(社会部・金惠美)


ルーツ同じでも  「在日」どうしがラク

 在日韓国人同士の結婚では、民族的な風習や、子供に対する家庭教育など、在日韓国社会の習慣を共有できることが大きな魅力となっているようだ。
 在日韓国青年会東京本部の会長を務める李信一さんは3世にあたる。2006年、青年会のイベントを通して知り合った、やはり同じ3世の女性と結婚した。
 李さんは、幼い頃から両親に伴われて民団の行事に出向いた。成長してからも民団と在日韓国人社会との接点は多い方だった。結婚は同胞以外には考えられなかったという。

韓服の結婚衣裳(写真提供=結婚相談所ベル)
 
   

 「同胞が相手では、冠婚葬祭や食事などの生活面で一から説明する必要がないでしょう。これは楽ですよ。日本人との間ではそうはいかなかったと思います」
 李さんは自分の子供も将来、青年会の活動に参加させたいという。だが、教育については考えが違ってくる。子供は日本の学校に通わせたいのだそうだ。
 「在日韓国人の多くは、日本で暮らし、日本で生涯を終えるのだと思う。日本の社会性を身につけるのは必要なことだし、自然なことだと思う。だけど自分たちの民族性を損ないたくはない。家庭で民族教育を疎かにしたくないのはそのためだ」
 民族性が希薄になる一方の在日韓国社会で、李さんのような3世はさほど多くはない。
    ◇◆◇
 埼玉在住の3世、鄭美宇さん(28)は、一風変わった形で夫と出会った。
 「インターネットのコミュニティサイトmixiに、仲間うちで開いているスポーツ関係のコミュニティーがあったのです。ある日、初めてオフ会に出向いたら、そこで偶然夫と出会いました」
 鄭さんは昨年の12月、8カ月の交際期間を経て入籍した。「在日同士」というシンプルな動機が、適齢期を迎えていた2人を第2の人生へと誘った。
 夫と出会うまで鄭さんは、在日韓国人であることを格別意識することはなかったという。
 「結婚相手の国籍がどうとか、ほとんどこだわりはありませんでした。もちろん、“帰化”にも抵抗はなかった。でもね、心のどこかに『できれば在日と結婚したほうがよいのでは』との思いがあったのでしょうね。うまく説明つかないのですが、そうした思いが夫との出会いではっきりしたということでしょうか」


「習慣の違い」楽しむ

 世代交代が進むにつれ、民族的な意識は薄まるしかない「在日」状況。自分がまず在日韓国人であること。それを受け入れることは、若者たちの取材を通して簡単なようで難しいことがわかるのだが、鄭さんのように、そうした民族意識はふとしたことから蘇るものなのかもしれない。
 東京に住む李亜美さんは、いわゆる「在日」3世だ。2006年10月、7年間交際した日本人男性と結婚した。ようするに国際結婚を選んだ。その理由を李亜美さんはこう述べる。
 「出会いからは15年。交際期間も長く、気心が知れていた。本来、在日同士で結婚したいという意識はほとんどなかった。親は在日同士で結婚してほしかったようだ。期待に添えなかったことは申し訳なく思う。ただ、冠婚葬祭など、これまでの習慣・風習と異なる状況に直面したとき、改めて自分が在日韓国人として生きてきたことを実感させられた。今はそうした習慣・文化の違いも楽しんでいる」
 李さんはしかし、在日であることを隠さなければならないような結婚だけはしたくなかった。
 「国際結婚が増えるのは自然な流れだと思う。相手の価値観やライフスタイルをそのまま受け入れられる人であれば摩擦は避けられるのではないかと考えている。」
    ◇◆◇
 在日韓国青年会中央本部で組織部長を務める林永起さんは昨年、韓国での語学留学中に知り合った日本人女性と結婚した。留学中、言葉が通じないことの苦労を共にしたり、互いの「国籍」について徹底的に話し合ったりした経験が結婚を強く意識するきっかけとなった。
 林さんの結婚を祝う周囲の声からはしかし、国際結婚に対する「本音」が垣間見えたという。
 「『時代の流れだからね』『好きになってしまったらね』などの言葉をかけられることが多かった。その言葉に続く言葉といえば『仕方ないね』だ。本音では在日同士の結婚を望んでいるのだ、と感じた」
 林さんは、青年会役員という立場にいる。周囲が在日同士の結婚を期待しても何ら不思議はない環境だ。林さんはこれに対し「民団や青年会は在日韓国人の法的地位向上や福利厚生を安定させるための生活者団体だ。自由結婚は生活者として当然の権利だと思う」と語る。
 本来、民族意識はあまり強くなかったという林さんだが、子供の名前は通称名を使用せず、韓国名だけを名乗らせるつもりだという。
 林さんは子供の教育方針について「子供には、日本と韓国、日本人と韓国人、それぞれのよさを教えていきたい」と述べた。

趙理恵さんの場合

 趙理恵さんは結婚式を今年3月に控えている。最近まで趙理恵さんは、結婚に踏み切るべきかどうか悩んでいた。理恵さんは32歳の在日韓国人3世。相手の高橋さん(35)も、元は韓国籍の持ち主だ。
 理恵さんは小中高と日本の学校を出て、大学はソウルの私大を卒業した。父は在日1世、母は2世。家庭での民族教育は厳格だった。
 30歳の時、彼女は両親の勧めで「在日」専門の結婚相談所に会員登録した。高橋さんとはそこで知り合った。
 高橋さんは“帰化”の道を選んだが、ルーツを共にする人と結婚したいという気持ちはあり続けた。
 理恵さんは、高橋さんが日本籍であることに躊躇を覚えたが、彼の人柄に惹かれ、婚約に踏み切った。
 結婚式の計画が進むにつれ、互いの結婚観の違いが表面化した。結婚式や日常生活では通称名(日本名)を使ってほしいと、高橋さんが言い出したのだ。高橋さんはさらに、結婚式では新婦も、参列者も民族衣装を着ないでほしいと言い出した。高橋さんは、理恵さんに日本への「帰化」を求めるようになった。
 落胆したのは理恵さんよりも両親だった。
 「結婚は見送ったほうがいい」
 何度も娘を促した。「ルーツさえ同じであれば国籍や価値観が違ってもいい」という高橋さんの気持ちに譲歩しても、娘に帰化を迫るのは到底認めることはできなかった。
 高橋さんが“帰化”にこだわってきた事情について話し合うようになったのはそれからだ。
 高橋さんが「日本人」として生きることを決めたのは、高校の頃だ。
 同級生が韓国人であることを理由に、いじめを受けているのを知って愕然とした。以来、自分の出自を隠そうと心に決めた。
 日本国籍取得の許可が下りた時、高橋さんは胸を撫で下ろした。
 高橋さんはそれでも、周りで韓国に関する話題が出ると、無表情を装いながらも内心穏やかでなかった。在日韓国人と会うと、どこかほっとする自分を確かめることもできた。
 高橋さんは自営業に携わっている。仕事は公共性の強いもので、「在日であることをオープンにすることは考えられない」という。
 自分が元在日韓国人であることを知っているのは、友人でも一人だけだという。
 理恵さんは、高橋さんの矛盾したそうした面を理解できるようになった。高橋さんに歩み寄ろうとする気持ちが出始めた。
 国籍に対する価値観の相違を理由に、2人は結婚を白紙に戻すことも可能だった。そうしなかったのは、互いを必要とする気持ちが強くなるにつれ、国籍の問題などは薄れていったことにあったのだろう。
 出産を望む理恵さんにとって、年齢的な焦りがなくもなかった。今後も「在日」との出会いはあるだろうが、互いに好意を持つとは限らない。理恵さんは何より、高橋さんを深く愛するようになっていた。
 理恵さんは今、「帰化はこれからの時代、仕方のないことかもしれない」と思うようになっている。
 ただ、理恵さん自身の“帰化”についてはまだ留保中だ。
 「在日」を否定するような結婚生活はできないということだけははっきりしている。それは、結婚後も2人の話し合いで納得する道を見つけるだろう。


国際結婚 若者の8割が賛成
子供の国籍は?

 日本の厚生労働省の調べによると、2006年だけで、韓国・朝鮮籍所有者と日本国籍者の間で結ばれた婚姻件数は8376件を数える。調査を開始した1965年の1971件に比べ、およそ4倍で、日本国内全体の婚姻件数73万971件のうち、約1%を占めている。
 在日韓国・朝鮮人女性と日本人男性間の婚姻件数が最も多かったのは90年の8940件。91年以降は6000件前後に留まっており、06年末現在では6041件を数えた。
 半面、韓国・朝鮮人男性と日本人女性間の婚姻件数は06年末現在で2335件。1984年に2000件を超えて以来、ほぼ横ばい状態だ。
 こうした状況について、滋賀県草津市で「在日」専門の結婚仲介業を営む権五春さんは、「国際結婚を選択することは自由。ただ、当人同士と周囲がよほど理解を示さない限り、潜在的な差別意識を感じるなどの問題が発生する場合がある。できればあまり勧めたくない」と本音も漏らした。
 国際結婚を選択した場合、避けて通れない問題の一つに、子供の国籍選択の問題がある。
 実際、国際結婚をした夫婦は、子供の国籍選択についてどのように考えているのか。
 日本人男性と結婚した李亜美さんは、実家の両親から帰化を勧められた。将来的な子供の立場を考えた上での提案だというが、李さんの心中は複雑だ。
 「帰化は自然な流れだと思う。ただ、自分のルーツを堂々と言えるような育て方をしたい」
 在日同士の結婚でも、国籍選択には寛容な意見が目立つ。
 青年会神奈川県本部で会長を務める柳栄鉉さんは、在日3世の女性と結婚した。一児の父でもある柳さんは「在日としての自分を肯定した上で、将来の選択肢や可能性が増えると思うなら帰化は反対しない」と語る。
 昨年九月、「2007青年ジャンボリー」の参加者600人を対象として行ったアンケート結果でも、日本人との国際結婚について「賛成」「どちらでもいい」と答えた人が全回答者の8割以上を占めていた。若者世代の結婚観を如実に反映した結果と言えそうだ。

 
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