| 政府と国民が一体 「日本の取り組みがうらやましい」
「対北融和政策の妨げ」 見放され続けた韓国拉致被害者
世界で8万4000人もの人々が北朝鮮国家機関の手にかかり、行方を絶ったと言われる。空前絶後の国家犯罪である。にもかかわらず、国際世論は今ひとつ盛り上がろうとしていない。拉致問題は核問題の後ろに追いやられる格好となっている。拉致被害が最も多く発生したのは韓国だが、その韓国の拉致問題への冷淡な姿勢が、国際世論の拡がりにストップをかける大きな要因となっているのは間違いない。
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韓国拉致脱北人権連帯の代表、都希侖さんのため息は深い。
「日本の拉致被害者家族がうらやましい。政府と国民が一体となってこの問題に取り組んでいる。韓国とは雲泥の差だ」
韓国政府は、韓国人拉致被害者が485人存在することを認めている。多くは55年から87年の間に海上で船ごと連れ去られた漁師たちだ。韓国政府はそうした事実を公的に認めながら、問題への取り組みでは消極的だ。
「親北政権だからだ」と、崔成龍・拉致被害者家族会代表は怒りをぶつける。
「親北政権は拉致被害者や朝鮮戦争で捕虜となった人々の送還問題を放置してきた」
韓国拉致被害者家族の怒りと悲しみは、韓国世論に届く気配はない。かつて反共主義が声高に叫ばれた時代、拉致被害者たちはいわれもなく「転向者」と見なされ、家族も白い目で見られた。北朝鮮を受け入れる「左派」政権が誕生して、さすがに「転向者」というレッテルは貼られなくなったが、今度は、融和政策の妨げになるとして、拉致事件は不問に付されていった。
昨年4月、30年近く行方不明であった金英男さんが、実は拉致被害者で今も北朝鮮で生きているということがわかった。マスコミは飛びついたが、それは拉致問題への関心からというより、英男さんが日本人拉致被害者・横田めぐみさんの夫だということに興味が持たれただけだった。韓国政府はと言えば、金英男さんと家族との平壌での面会をまるで美談のように演出した。韓国政府の姿勢は、問題解決への大きな壁となってきた。
その親北政権が今年、執権の座から下りる。
都希侖さんは、これまで、拉致被害者家族への政府の支援がなかったことや、世論の反応が冷たかったことを振り返りながら、新政権への期待を寄せている。
「まともな活動ができるようになれればと思っている」
韓国人拉致被害者の家族らは、新政権に対し、拉致被害者の情報公開を求める方針だ。同時に日本の拉致対策本部のような専門部署を政府内に設置してくれるよう要望書も提出する。韓国にも専門部署があってこそ、日韓両政府と被害者家族同士の綿密な連携が図れると考えている。
新政権は、拉致被害者救出のための一歩を踏み出せるのか。拉致問題への取り組み方いかんで、新政権の真価が問われる。
金英男 78年8月、韓国の群山市沖合で北朝鮮の工作員に拉致された。拉致問題の象徴的な存在である横田めぐみさんの夫であったことから、これで韓国政府も問題解決に本腰をいれるだろうと、日本側の期待が高まった。
それでも声をあげ続け 全員解放を 飯塚繁雄さん
「これまでの歩みを止めるわけにいかない。やれるだけのことはやろうと思っている」
「北朝鮮による拉致解決国際連合」発足
「できれば、金賢姫さんに会わせてほしい。耕一郎に母のことを一つでも二つでも直接聞かせてあげたい」
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| 田口八重子さんが失踪して29年。大韓航空機爆破事件で八重子さんは北朝鮮に生存していることがわかった |
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日本では、拉致問題の進展が見えないことに、被害者家族たちの表情に疲労の色が見える。
日本政府は、02年に帰国した蓮池薫さんら5人に続いて、何人かでも帰国することがあれば、「拉致問題に進展あり」と見なし、北朝鮮の出方に応じ、段階的に制裁解除や支援を検討する方針を固めている。高村正彦外相が昨年11月、記者会見で明らかにした。
拉致被害者家族らに、これを歓迎するような表情は見られない。
「何人かの拉致被害者が帰ってくることを“進展”と言えるだろうか。“全員帰国”が前提にならなければ意味はない」
拉致被害者家族会の飯塚繁雄代表は、政府方針にさほど期待を寄せていない。むしろ、「解決への道は遠のくようになっている」と、失望の表情すらにじませた。
そんな中で、朗報が飛び込んできた。韓国の政権交代である。親北政権が、昨年暮れの大統領選挙で、韓国民に拒否されたのだ。
対北融和政策を重視して、拉致問題にフタしてきた韓国に、日本の拉致被害者家族は、口にこそださなかったが、苛立ちを覚えていたはずだ。飯塚さんは、李明博勝利のニュースを聞いて、率直な感想を述べた。
「韓国は拉致被害者情報をいっさい流さなかった。盧武鉉さんの指示だったのでしょう。韓国政府は変わってほしいし、変わるでしょう。誰もが期待することです」
期待してもいい動きは、年初から見られるかもしれない。韓国政府の手許にある「拉致情報」は、これまで親北政権の手で伏せられてきたが、それが、新政権の手で公開されるかもしれないのだ。その拉致情報から、日本人拉致被害者に関する新たな事実が出てくる可能性は十分ある。
「できれば、金賢姫さんに会わせてほしい。耕一郎に母の記憶の一つでも二つでも聞かせてあげたい」飯塚さんの切なる願いだ。
昨年12月、飯塚さんは、日韓など5カ国の拉致被害者家族らの連携強化のため結成された「北朝鮮による拉致解決国際連合」の代表にも就任した。
「第1回目の会議は、来年3月にソウルで開こうと思っている。拉致問題の解決のためには、韓国の協力が不可欠だ。韓国内の世論を高めるとともに、政府間の連携を図るきっかけにしたい」
だが、飯塚さんの期待通り、日韓の両政府が拉致問題で連携し、北朝鮮に対してより強い姿勢を示すかどうかは微妙だ。李明博次期大統領は、拉致問題に対する理解は示しているものの、具体的な対策は口にしていない。
飯塚さんはそれでも声を上げ続けるしかないと思っている。
「自分に何ができるか。どれほどの力があるのか。これまで進んできた歩みを止めるわけにはいない。八重子、めぐみさん、多くの拉致被害者に申し訳が立たない。どこまでやれるか。やれるだけのことはやろうと思っている」
李明博次期政権は、対日関係重視の外交方針を掲げた。ならば、飯塚繁雄さんの言葉に、真剣に耳を傾けねばならない。(崔世一)
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田口八重子さんは78年に失踪した。兄の飯塚繁雄さんが、八重子さんの消息に接したのは、87年、大韓航空機爆破事件の実行犯として逮捕された金賢姫元死刑囚の、「李恩恵(田口八重子さん)という人が自分の日本語教官だった」という証言からだった。
八重子さんが失踪してから、繁雄さんは、当時1歳だった八重子さんの子を引き取り、自分の4番目の子供として育てた。その耕一郎さんも今は30歳。IT関連会社の技術者として働きながら、叔父繁雄さんと共に救援活動の一翼を担っている。
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