「均衡ある発展」への実験
韓国では、首都移転に関する関心が再び高まっている。首都移転のための「新行政首都の建設のための特別措置法(2004年1月16日)」が憲法違反であるという憲法裁判所の判決を受けた。この判決は、移転反対論者の意見が支持されたものであった。これに対して、政府は、国会と大統領府、検察庁などをソウル特別市に残す内容に修正した特別法を提案し、2005年3月18日に、制定・公布された。06年末に土地の買収が終了し、07年7月から本格的に工事が始まっている。
国土の12%に人口の48%
国土面積の11.8%にすぎない首都圏に、韓国の人口4700万人の48.3%が居住しており(05年)、資産規模で100大企業の本社の97%、公共機関の85%が存在する。平均的なサラリーマンの年間所得に対する首都圏の住宅価格は10.3倍となり(04年)、新規参入者がソウルで住宅を購入することが極めて難しくなった。ソウルに隣接する都市からの通勤者も増加しているが、その平均所要時間は72分となった(00年)。これによって交通渋滞は益々深刻になっており、大気汚染も問題となっている。
行政新都市は、忠清南道の大田広域市と忠清北道の清州市から10キロメートルのところに位置し、全国の主要都市から200キロメートル内に立地する韓国の中心にある。文化施設などが完成する2030年の人口は50万人と予測されている。2015年までにソウルから移転する中央行政機関は、部・庁などの49の単位機関と17の政府系研究機関であり、2、3の大学が誘致される(高麗大学校の分校が確定している)。
認可権など多くの権限を持つ中央行政機能が地方に移転すると、関連する企業の地方移転も予想される。これによって、ソウルの交通事情などは大幅に改善されることが期待され、さらに首都圏に集中している経済力の分散も期待される。
既得権持つ人々の反対
この首都移転に対する反対意見も依然として強い。地方との均衡のとれた発展は、日本などでも失敗している。韓国は、北朝鮮との統一を想定して北朝鮮を含めた検討をすべきである。ソウルを東京・北京・上海などと競争できる都市に整備することが急務である。予算などの資源を分散すべきではなく、集中すべきである、というものである。
しかし、こうした反対意見は、首都圏に既得権を持つ人たちが、特に不動産価格の下落を心配して唱えているものであり、北朝鮮との統一と言うに至っては時間が必要である。また、中心から主要都市まで所要時間が2時間という、韓国の均衡のとれた発展は可能であり、政治目標とすべきである。物流費用などを考慮すれば、ソウルを競争力ある都市にするためには、移転は不可欠である、とも主張される。
いずれにしても、特別法によって事実上の首都移転は決定されており、土地の買収を終えて、工事が始まっている。また、日本と比べてみても、所得に対してソウルの不動産価格はあまりに高く、ソウルと地方の経済力と教育の機会の格差は拡大する一方である。
これまで手が尽くされてきたものの、解決できなかった社会問題が、首都移転によって解決され、新たな跳躍の足掛かりとなるのか。韓国の実験は、今始まったばかりである。
(早稲田大学教授・李洪茂)
首都移転 首都への一極集中を解消するため、国家政府の立法機関・行政機関・司法機関など首都機能の一部を他の都市に移転することをいう。首都を丸ごと移転する遷都とは異なり、国家機関の一部だけが移転される
|