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2007年12月12日発行版
 
わが同胞(はらから)の心象 葬送記−19−
金両基
 
 

死を語らずして生を語れず
死闘演じる2神 白黒ロード

 幸せに、旺盛な人生を送りたいという願望を打ち砕く災害にとつぜん襲われ、その日から災害との戦いがはじまる。人智をもってしては災害を防ぎ止めることができなかった古人は神仏に助けを求めた。もっとも大きな災害である死が飢餓や病、天災などによってもたらされる最悪の現象であると自覚したとき、古人は同時に生の尊さを自覚したのである。

エベンケ人に伝わるマスク 撮影・金両基
 

 死を語らずして生を語れず、生を語ればその対極に死がある。それが人生、人が生きる間つまり死ぬまでの一生を指すようになった。
 人生の自覚が時とともに善<――>幸<――>生、悪<――>不幸<――>死といった図式を形成してきた。シャーマニズム文化圏では対極的なその2つが白と黒の2神の死闘を演じる神事によって伝承してきた。2神の漂白街道をわたしは白い神と黒い神のモノクロロードと名づけたが、その死闘は災害を防ぎ止め、幸せと旺盛な人生を希求してきた証である。
 太極は白と黒で、韓国の国旗である太極旗では青と赤で円を二分して描く。それは人間が男と女、一日が昼と夜、人生が生と死によって二分されていると考えた古人たちの体験的知恵が生んだ二元論である。
 太極旗の青は中央と東西南北の5つの方角を表した5方の東を、赤は南を表しているが、それは太陽の光が勢いを増してゆく方位である。ちなみに、西は太陽の勢いが弱まってゆく方位である。青と赤を人生に例えるならば幼児から壮年・熟年に相応する。そこには旺盛な人生への篤い思いが込められている。
 タルチュムノリに登場する白い仮面に白装束の翁と黒いチマに黒い仮面の媼のシーンは、この民族がその白と黒の神が漂白したモノクロロードを人間界のドラマに仕立てたものである。艱難辛苦を共にして生きてきた媼が、家出をした夫の翁を探し当てると若い遊女と戯れていた。そこから夫婦喧嘩になり夫の暴力で旅立つ。ただの夫婦喧嘩ならそこでドラマは終わるのだが、村人はムダン(巫堂・巫女)を招いて媼の霊を弔う(写真)。そこにこの民族の「情」が表出されているというよりも、媼が神であったことの証であり名残だとみるとその神事空間がみえてくる。
 神には善と悪の2神がいて、善なる神は温和で幸を授け、悪なる神はそれを妨げ災害をもたらすと考える二元論はスラヴ民族からさらに西方の諸民族にも観られるが、ここではスラヴ神話やシベリアの少数民族、ツングース族など北方系の神話や神事からその道をたどってみる。

薄幸なミヤル媼の霊をムダンによって慰める(鳳山タルチュムノリ) 撮影・金両基
 
 

 スラヴ、ロシア神話の最初にベロボーグとチョールヌイという二神が登場するが、F・ギランの『ロシア神話』(小海永二訳、青土社)によればベロボーグは白い神、チョールヌイは黒い神を表した単語であり、この2神は対立し戦う。白ロシアでの白い神は「白い衣を着、白い髭を持った老人の姿をして現れる。昼間しか姿を見せず、その行為は常に善行に限られ」、道に迷った旅人を危険から救い、不幸な農夫を助けるとF・ギランはいう。
 シベリアのブリヤート人の白と黒のシャーマンは数百里を隔てて相手が死ぬまで闘い、黒シャーマンの死をもって戦いは終わる。白シャーマンは善と幸福を授けてくれるので歓迎され、黒シャーマンは悪や病、死を招来するので恐れられていた。M・エリアーデは名著『シャーマニズム』で黒シャーマンの起源を冥界と悪魔に関係づけているが、超人的存在である黒シャーマンを倒せるのは力の強い白シャーマンしかいないので、人々は白シャーマンが力を発揮してくださるように奉った。ときには、白シャーマンが倒され飢餓や病気などの災害がもたらされ多くの死者を出すこともあるが、究極には白シャーマンが勝つことになっている。黒シャーマンの力が強ければ強いほど、それを倒した白シャーマンはさらに強いという仕組みになっている。20世紀初頭に作られたシベリアの諸族のシャーマン・マスクのなかに黒色のマスクがあり、その一つであるエベンケ人に伝わるマスク(写真)の面相はアジア的な雰囲気が漂い、韓国の仮面にも通じる。
 中国の東北地方、旧満州に住むツングースやモンゴル族が喇嘛(ラマ)廟の神前で演じた僻邪進慶の神事舞踏の打鬼(タクィー、跳舞(チャンムン)ともいう)に白老人と黒老人が登場するが、これも同じ流れを汲んだ神事とみて差し支えない。ジャガン・ウブクン(白老人)は長い白髭をたくわえた穏やかな人間くさい老人の扮装をし、ハラ・ウブクン(黒老人)は阿修羅形の怖い面相で、黒髪に黒髭を垂らしている。老人であるから白髪に白髭が自然だが、黒髪に黒髭で、面相も呼称も老人である。
 黒シャーマンは喇嘛教で老人に変容し、それまで男神であった白と黒の2神は韓国のタルチュムで男女の夫婦神に変容し、黒い神の媼が死ぬ。その死は善の勝利、幸せの招来を意味し、ムダンによる葬送儀礼によって冥界に送り、黒い神の祟りを防いだのである。
 祖霊を守護神とする韓国の葬送儀礼では白の喪服に白の死装束を常用してきたが、そこにシャーマニズムの白への信仰が投影されている。
(キム・ヤンギ=比較文化学者)

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