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2007年11月7日発行版
 
謎隠した金大中事件報告
 
 

 韓国政府の「過去事件真相究明委員会」は10月24日1973年に起きた金大中拉致事件に関する調査結果を発表し、事件は韓国中央情報部の組織的犯行によるものだと結論づけた。今のところ、これに疑義を挟む声は韓国でも日本でもあがっていない。
 それでも、この調査報告にどこか胡散(うさん)臭さが残るのはどういうわけか。
 一つは、なぜ今になってこのような報告が行われたのかということだ。“証拠”として挙げられているのは、すでに知られているものばかりだ。拉致を命じたとされる当時の中央情報部長・李厚洛氏自身、87年、「月刊朝鮮」のインタビューを受けて、事件への韓国情報部の関与を認めている。
 古めかしい“証言”が改めて持ち出された理由を考えれば、委員会がことさら強調しようとした点は一つしかない。事件に朴正煕大統領が直接関わったということを強く印象づけたかったのだろう。


印象づけたかった朴大統領関与

 盧武鉉政権下で生まれたこの政府調査委員会は、これまで植民地下親日派末裔たちの財産問題を追及してきた。だが、盧武鉉政権が委員会を立ち上げた真の狙いは、朴正煕政権時代の“古傷”を持ち出し、親北政権としての正当性をクローズアップさせることにあると、早くから韓国内外の識者たちから指摘されていた。
 究明委員会はしかし、今回、朴大統領の関与を示す物証や明確な証言を何一つ挙げることができなかった。李厚洛証言の中には、朴大統領が事件後、報告を受けて激怒したという内容もあるが、委員会はこれには目を背けている。
 結局、朴大統領が犯行を直接指示したと裏付けるだけの根拠は示されなかった。「李厚洛部長が、『私がやりたくてやったと思うのか』というのを聞いた」(元情報次長)「朴大統領が金大中氏の排除を指示したことを李厚洛部長から聞いた」(元議員)などといった“証言”は、いずれも間接的なものでしかない。政府の公的機関が、ただそれだけで特定の人物を名指しし、事件の関与を公然とあげつらうのは普通ではない。大統領選挙を目前にして親北政権の正当性をアピールしようとする政権側の焦りのようなものを感じさせる。
 究明委員会の公正さは疑われてしかるべきだ。過去事件真相究明というなら、それこそ、金大中氏にまつわる数々の疑惑事件をも洗い直すべきだ。
 88年8月の徐敬元(当時平民党議員。総裁は金大中)秘密訪北事件。92年大統領選挙において北朝鮮が主体思想派に「金大中を支援せよ」と暗号指令を送った事件。そして、2000年、金大中氏が4億5000万ドルを金正日氏の海外秘密口座に不正送金した事件。
 どの事件も明白な証拠があったにもかかわらず、金大中氏は生き延びた。たとえば、徐敬元事件の際、金大中氏は持ち前の「謀略論」を展開し、時の盧泰愚政権は民主化コンプレックスに苛まれて事件をうやむやにした。
 金大中氏を取り締まれなかった盧泰愚政権と、弾圧に踏み切った朴正煕政権。この差は、朴正煕大統領に民主化コンプレックスがなかったことを意味している。金大中氏を民主化闘士というよりは、「親北闘士」と見なしたからにほかならない。朴政権の過ちはここにこそあったと見るべきだ。「親北闘士・金大中」を必要以上に警戒しすぎたのだ。


目に見えない事件の背後

 金大中事件の背景に韓国民主化闘争があったことは疑いを入れない。だが、金大中氏にリードされたそれを、おぞましく思う人が後を絶たないのはどういうわけか。反ピノチェト、反マルコスに立ち上がったチリやフィリピンの姿になぞらえることに少し間をおいて考える人々が現れ始めているのも事実だ。
 金大中氏は1973年、宇都宮徳馬自民党議員を通じ、金日成氏から謎の“封筒”を預かっている。金大中氏の対北コネクションが疑われはじめる最初だったのだが、この4カ月後に拉致事件が起こり、それまでさほど知名度のなかった金大中氏は「韓国民主化闘士」として一気に名を挙げることになり、彼の政治活動は国際世論の大きな支持を得ることになる。反対に韓国情報部は、犯行現場に拉致に関わった韓国大使館員の指紋を残すという情報機関にしては、なぜか信じがたい初歩的ミスを犯すなどして、朴政権を大きくイメージダウンさせた。これらは事件の背後に潜む、目に見えない深い謎だ。
 韓国情報部が犯行に手を染めたことは間違いないにしても、拉致をあらかじめ想定したある人物たちの計画に、李厚洛氏が嵌ったという見方は成り立たなくもない。
 犯罪捜査のABCは、事件で得をしたものと、損をしたものを見分けることにある。金大中事件で見れば、それはもうはっきりとしている。

 

 
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