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2007年11月21日発行版
 
BOOK TIMES 読書
 
 

国境の河 中朝国境 慟哭の岸辺に立って 山秀子著
鴨緑江畔に注がれた歴史の眼差し 評者 萩原遼

 昨年の夏、出張先の北海道に高山さんから訳してほしいと朝鮮語の詩がファックスでとどいた。本を書いているとのこと。いま『国境の河』を手にしてこんなことを構想していたのかと。

光人社・刊 定価=1600円(税別)
 
   

 この本は中朝国境の河、鴨緑江と豆満江にまつわる人物エッセーとでもいおうか。著者はながく米週刊誌『ニューズウイーク』の記者で、英語で仕事をしてきた人。文章が美しく、川のように流れる。こんな日本語も書くとは、とおどろいた。
 もうひとつのおどろきは、なんと多くのコリアンと濃密なつきあいのあることかと。命がけで河を越えた脱北者。朝鮮人の夫と北朝鮮に移住した日本人妻。それだけではない。コリアンとかかわった多くの日本人が登場すること。戦前、中朝国境の丹東で満州自動車を立ち上げた片山豊氏をはじめ、豆満江を越えて満蒙開拓団に加わった13歳の少年など。その人たちの語る植民地時代の朝鮮は、この本に深みを加えている。
 北朝鮮のニセドル「スーパーK」と格闘する偽札鑑定機の製作者松村喜秀氏も登場する。その交友関係の広さと深さ。さすがに腕利きのジャーナリストである。私もその末席に加えていただいて、秩父の山荘に何人かで招かれたことも。小柄で、いたずらっ子のような瞳。春風のような笑顔。このふんいきでどんな人も武装解除させるのか。やくざの親分も、こわもての北朝鮮国家保衛部員も。
 この本には著者の姉が14歳のとき、チマ・チョゴリを着て得意満面の笑顔の写真がのっている。戦後山形でつきあいのあった密造酒作りの朴さんの奥さんにせがんでやっと着せてもらったものだ。朝鮮人との屈託のないつきあいが子ども時代からあったこと。著者のコリアンに注がれるあたたかいまなざしの背景はそんなところにもあったのかとはじめて知った。日本人も捨てたものではないと、私はうれしくなった。
(ノンフィクション作家)


人間と戦争の記録 タイガーフォース マイケル・サラ+ミッチ・ウェイス著 伊藤延司訳
ベトナム戦争 幻の米小隊 評者 鈴木琢磨

 のっけからたいへん失礼な紹介になるけれど、この2004年度ピューリッツアー賞(調査報道部門)受賞作『タイガーフォース』、ぜひとも、おしりからめくって欲しい。膨大な注釈に圧倒されるはずである。

WAVE出版・刊 定価=1900円(税別)
 
   

 たとえば、取材源として、こう記されている。〈米軍犯罪捜査司令部(CID)タイガーフォース事件主任捜査官グスタフ・アプシー准尉、サム・イバラーの母サーリーン・ラモス、妻ジャニス・リトル、元居留地警察官、友人、家族にインタビュー〉。万事、この調子で、そのリストは50ページ以上にも及んでいる。
 あの泥沼のベトナム戦争下、米軍の偵察小隊「タイガーフォース」が手を下した、おぞましくも陰惨な住民虐殺事件を暴いた力作である。その追及が生半可でなかったことを先のインタビューリストが裏付けている。
 むろん、歴史の真実を白日のもとにさらしつつ、この一級のルポルタージュは、その副題の通り、あくまで人間と戦争の記録であって、極限状況の人間に迫って読ませる。
 調査報道、それは新聞にとって生命線である。ジャーナリストたらんとするもの、寝食を忘れても、そしてときに命を張ってでもなしえたいと思うものであるが、いささかのつたない経験に照らしても、ことはそう簡単ではない。
 個々の記者のただならぬ情熱、それと「運」がないと不可能である。米国のオハイオ州トレドの日刊紙「ブレード」に連載した2人の記者に敬意を表したい。
 と同時に、イラク戦争のただ中にあって、こうした米軍の残虐性を正面から問う勇気に、米国のジャーナリズムの健全さを思うのである。
(毎日新聞編集委員)

 

 


イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策I・II ジョン・J・ミアシャイマー +スティーヴン・M・ウォルト著 副島隆彦訳
ネオリアリストたちの追及

 序文は、英国の数学者・哲学者のバートランド・ラッセルの引用から始まる。
 「自分が長い間、当然だと思い込んできた物事や出来事を、時に疑ってみることは全ての人間行動において健全なことなのである」

講談社・刊 定価=1800円(税別)
 
   

 「ユダヤ機関」(Jewish Agency)のデータによると、2002年の時点で在米ユダヤ人は600万人超。米国全人口の2%程度のマイノリティーグループにすぎない。
 この2%が、「ニューヨーク・タイムズ」や「ワシントン・ポスト」などの有力メディアを介したオピニオン形成から、米国政府の中東政策決定過程まで、絶大な影響力を及ぼしていると本書は指摘する。
 著者のジョン・J・ミアシャイマーとスティーヴン・M・ウォルトが示す疑問は深まるほどに、分析は鋭くなる。イスラエルに偏重する米国の中東政策が、米国の国益に適ったものなのか、追及に躊躇はない。ネオコンにおもねた米国の中東政策は、「バランス・オブ・パワー」と国益を重視するオフェンシブ・リアリストの著者たちにとって、怪しく映るほかなかった。
 イスラエル・ロビーが存在しなかったらという仮定で著者は言う。ブッシュ政権はイスラエルとパレスチナ双方に中東和平実現のため圧力をかける。「米国政府はその利益のために行動し、現実に即した決定を行うだろう」というのである。
 著者は「イスラエルを普通の国として処遇する」ことが重要だと説く。根底にあるのは“地域外から均衡を図る”という考えだ。「人道支援」、「治安維持」という名の下で、米国の若者が異国で血を流すことへの批判がある。
 本書の目的はイスラエル・ロビーの批判ではない。イスラエル・ロビーに左右されてきた歴代米政権の中東政策への強烈な疑問提起だ。米国社会に大きな一石を投じている。欧州でベストセラーとなりつつある。残念ながら本書のすごみを知る読者は日本ではまだ少ない。
(文化部・溝口恭平)

 

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