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2007年10月10日発行版
 
編集余話 瞻星台
 
「歴史が何の役に立つのか」

 フランスの中世史家マルク・ブロックの『歴史のための弁明』(岩波書店。1956年)を読み直してみた。“弁明”は、「パパ、だから歴史が何の役に立つのか説明してよ」という、わが子の問いに答えることから始まっている▲幼子も、歴史の役割を疑問に思っているのかもしれないと、ブロックの歴史家としての自問自答が始まる。役立たずの歴史と、役立たずの歴史を綴り語ってきた史家たちの記憶のありように疑問を投げている点が読む者を惹きつける。読み直すと今でも新鮮なのが、ブロックの「遺書」である▲この本で印象に残ったのは、歴史家のアンリ・ピレンヌとストックホルムを訪ねるくだりだ。市内の修復された市庁舎を見て、「この生き残ったものへの理解能力こそ、歴史家の主要な特質である」と語っている▲ブロックはしかし、未曾有の戦争で生き残った諸々への理解能力を発揮することができなかった。第2次大戦中、レジスタンスに加わり、故郷リヨンでドイツ軍に捕らわれて銃殺された▲だが、ブロックの独裁者に対する歴史的考察はずっと以前から始まっていた。残した言葉は今も生々しい。「ロベスピエールをたたえるひとも、にくむひとも、後生だからお願いだ。ロベスピエールとはなにものであったのか、それだけをいってくれたまえ」▲金正日と盧武鉉の南北首脳会談を眺めて、ブロックのこの言葉がよぎった。金正日を愛する韓国人も、金正日を憎悪する韓国人も、金正日が何者であるのかを、ほとんど何も語ろうとしていないからだ。ロベスピエールほどの歴史的人物になることはまずあり得ないにしても、共産主義を騙り、統一をうそぶいただけのこの人物の歴史的な正体は闇に葬られようとしている。民族融和が定着しているというなら、韓国の人々よ、だから歴史が役に立つのか説明してほしい。
(H)

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