| 草の上の舞踏 日本と朝鮮半島の間(はざま)に生きて 森崎和江著
激変する韓国 過ぎゆく時に注がれる詩人のまなざし 評者 中沢けい
韓国を訪れるたびに、その社会が急速に変化していることを感じる。植民地支配時代、南北動乱時代、そして今も続く分断問題。そのような政治的な激動期を経ながら、経済発展を続けてきた国の変化には目を見張るものがある。
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藤原書店刊 定価2400円(税別) |
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森崎和江は故郷を韓国の大邱に生まれ、慶州に育った人で詩人である。女学校までの教育を朝鮮半島で受けたのは、父親が教育者としてその地に赴任していたからだ。人は誰しも生まれ故郷が懐かしく、幼年時代を過ごした土地を愛する。植民地における支配者側に属していたという自覚があり、手放しで懐かしさいとおしさに浸るわけにはいかない。森崎はこれまでも、そうしたスタンスにたったエッセイを書いているが、『草の上の舞踏』は経済発展を続ける韓国でのスケッチになっている。
かれこれ15年ほど前から韓国と行き来ができた私にとってこの本は、植民地ほど遠くない、私自身が目で見て、耳で知っている近い過去の韓国を想起させるエッセイであった。しかも政治的観念的主張ではなく詩人の身体を通して、日帝支配時代と呼ばれる過去へも繋がっているのである。
表題の『草の上の舞踏』は、草原で即興の踊りを楽しむ女性たちの姿を描いたエッセイからとられている。思わず「そうだ」と嘆息した。数年前まで観光地に行くと華やかなチマチョゴリを着たハルモニが即興の踊りを楽しそうに踊っていた。その踊りは平和な時代を過ごせるようになった喜びが感じられた。10年もたたないうちにあまり見かけられなくなった光景だ。
韓国は激しく変化している。経済発展に誇りを持っている。そこで過ぎ行く時というものに、詩人の目は注がれている。変化の波に消えてしまったものが、ここにはスケッチされているのである。消えてしまいはしたが、美しいものが描かれている。
(小説家)
対北朝鮮・中国機密ファイル 欧陽善著 富坂聰編
この本は、中国では危険すぎて出版できなかった 評者鈴木琢磨
編集部から私に与えられた役割は「対北朝鮮・中国機密ファイル」の書評である。むろん、それは百も承知しているけれど、私は心配が先に立つ。不安でしかたない。当代ピカイチの中国ウオッチャーであり、わが友でもある編者、富坂聰の命が狙われているのではないか、と心底、恐れているからである。
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文藝春秋刊 定価1762円(税別) |
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いつものごとく、本が刷りあがるや、こんなのを出したんです、といち早く手渡してくれた。すごいね、売れっ子になって、と冗談めかして言って、すぐ言葉を飲んだ。お得意の中国内幕ものルポルタージュか、と手にした本が、この驚くべき対北中国機密ファイルだった。
ぱらぱらとめくるだけで、ぴんとくるものがあった。本物のにおい、がした。
〈私が心がけたのは唯一つ、できる限り原文に忠実であるべきだということだ。私が読者であれば、できるだけ加工されていない純粋なものを読みたいと考えると思ったからだ〉
いまどき、これほど武骨なタイトルの本も珍しい。それがこの本のたぐいまれな価値を物語っている。そう、羊頭狗肉でなく、羊頭羊肉、100パーセントまじりっけなし。
著者「欧陽善」はペンネーム、実際は中国共産党中央対外連絡部亜洲局の現役官僚を中心にした政・官・軍の精鋭たちであり、その持てるインテリジェンスをつぎこみ、現下の北朝鮮を分析した内部報告書である。古くは朝鮮戦争で「血の友誼」を固めた両国、いまなおあからさまに批判できないデリケートな関係が続いているのは周知の通り。だが、一皮めくれば、中国の北朝鮮に対するとてつもない警戒心、不信感が渦巻いていたのである。
たとえば、2006年10月9日の地下核実験である。
本国から30分前に知らせよ、との指令電報が届いていたにもかかわらず、在北京北朝鮮大使は、さらに10分遅らせて中国側に通報したのである。胡錦濤、温家宝ら最高指導部に通告内容が伝えられたのは、核実験実施の直後になったという。
この「20分前通告」事件こそ、いまの中朝関係を象徴するものと、機密ファイルは記している。また、金正日の後継者については、二男金正哲、三男金正雲に絞られる、とも明記している。
この本は中国では危険すぎて出版ができなかった。
そのお蔵入りの原稿を入手し、しかも加工せず、われわれ平壌ウオッチャーの前に提供してくれた富坂の手腕に感謝しながら、私はやはり冒頭の心境になるのである。ここまで中国の本音をさらけだしてしまったら、何が起こるかわからない。殺されるな!
(毎日新聞編集委員)
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KKベストセラーズ 定価1300円(税別) |
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中国危険産物取り扱い読本 椎名玲著
食べたらヤバイ!主要食品の毒抜き法伝授
眉をひそめながら読んだ、中国製品の危険性を指摘した一冊。“段ボール肉まん”騒動や、パナマで365人の死者を出した劇薬入り咳止めシロップ事件、重金属入りのおもちゃなど、世界じゅうで中国製品の危険性が指摘されている。米国などでは、「チャイナ・フリー」という中国食品を含んでいないことを意味する表示が出はじめている。
食品汚染の原因は拝金主義にあると、著者の椎名玲は指摘する。
貧富の差が激しい中国。資産1億円以上の中国人は5000万人いる一方、年収4万円の農民が国民の大半を占める。
少しでも収穫を増やすため、農薬を大量に使った野菜作りが横行する。一部の農民がしていることと信じたいが、本書が挙げるおびただしい事例を見ると、不安と不信ばかりが増す。
飲食業者の拝金主義も深刻だ。「民工米」とよばれる発ガン性のあるカビが生えた古米や、「下水溝油」という下水溝に溜まった油をすくい取って加工したものが市場に流れる。これらは当然流通が禁止されているが、地方からの出稼ぎ労働者などの需要があるから流通する。
中国のそうした“毒垂れ流し”については類書も多い。本書もともすれば類書に埋もれがちだが、あとがきで少し、日本や欧米企業の責任をも指摘している。
農業の場合、種や農機、栽培方法を教えたのは日本企業だ。発ガン性が指摘されているホルマリンによる消毒は、日本で検査対象外となっているため、日本向けの中国産しいたけなどに使われている。このやり方を教えたのも日本企業だった。
こういった日本企業や欧米の企業は今、ミャンマーやアフリカ諸国に進出しはじめているという。本書がこのあたりにもう少し踏み込んでいればと、読後感が残った。
中国だけが拝金主義者ではない。根は複雑に絡みあっている。
(文化部・秋一紅)
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