| 1636年厳冬、清に追われ篭城した朝鮮王朝の47日
前回は、猪肉を準備するよう、並々ならぬ手配を、通信使の通る沿道各藩および幕府の直轄領の代官所にしていたことを取り上げた。
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キム・フン |
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この本の著者、実は私のアイドルだ。キム・フン氏といえば、日本でも『孤将』で知られる作家、もしかしたら少々堅いイメージを抱いている人も多いかもしれないが、実は、追っかけしたいくらい、めちゃくちゃカッコいい人なのだ。鉛筆と自転車以上のハイテクは持たず、自ら「力ない老人」と呼ぶくせに、誰よりも青年然とした魅力を放ち、わが道を貫く作家。男性や若い女性にも、大変モテる。
本書は、今年4月韓国で出版されるや2カ月で10万部を売り上げ、今年一番の話題作ともいわれる著者の3作目の歴史小説だ。清が朝鮮王朝を2度にわたって侵攻した「丁卯の乱」「丙子の乱」のうち、1636年12月に起こった後者の歴史を舞台とする。
朝鮮王朝16代王・仁祖と臣下らが、清に追われ篭城した47日間。厳冬下の南漢山城で、凍りつく山河が解けていく様と、閉ざされた中で追いつめられていく様が、じわじわと同時に進んでいく。限られた食糧と軍備を前に、「降伏」か「抗戦」か、王や官僚の言葉が城の内側だけで回りつづけ、兵士と民衆の生は極寒と飢餓にさらされる。城から出ても、城に残っても、もはや国家の存亡は明らかだ。
そんな中で、作家は、王にも、主戦派、主和派の官僚にも、兵士にも鍛冶屋にも、それぞれの主張をまったく等しく語らせる。この小説には主人公は存在しない。悲運の歴史にも作家は同情しない。歴史は栄光と恥辱が混ざりあった複合的なものだからためらいなくそう言い切るのも、作家自身が、大義よりも個々を見つめ、アウトサイダーとして生きてきたからにほかならない。
小説は、王の屈辱的な三跪九叩のあと、みずみずしいまでの生の尊さをラストに見せる。キム・フン氏のその眼差し、だから、抗いがたい。 出版社 ハッコジェ(学古齋)
吉原育子(よしはらいくこ)
翻訳者 新潟県生まれ。訳書に『私は男より預金通帳が好き』(草思社)などがある。
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