| “アジアの坂” 転げ落ちる米国
限定的核保有への道
「このままでは米国がアジアを見捨てるかのような誤解を与えてしまうのではないか」。
2008年の本番に向けて米大統領選挙が早くも熱を帯びる中、米民主・共和両党の外交現実派の間では今、そんな懸念が囁かれている。
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それまでの対話拒否から一転、北朝鮮との融和路線に踏み出したブッシュ米政権。だが、米国の外交サークルで北朝鮮の金正日政権がブッシュ政権の政策転換の結果、核を放棄すると信じている人間は誰もいない。イラク問題で政権の屋台骨である国民の支持を失ったブッシュ大統領にとって、現在の北朝鮮政策は「何か得点を得るというよりも、これ以上の減点を防ぐ」(元ホワイトハウス高官)という妥協の産物でしかない。
先の中間選挙で与党・共和党が大敗。その詰め腹を切らされる格好で退任したラムズフェルド前国防長官の退場は、北朝鮮政策を巡る政権内のパワー・バランスに大きな変化をもたらした。具体的には強硬派の筆頭であるチェイニー副大統領の影響力が低下し、外交現実派に属するライス国務長官の存在感が増す結果となった。
そのライス長官にかねて、米朝直接対話の必要性を説いていたヒル国務次官補(東アジア・太平洋担当)はこの機を逃さず、一気に米朝ベルリン会談、そして北京での6カ国協議合意へとつなげていった。
一方の中国は当初、6カ国協議の議長国就任に難色を示していたが、対米重視志向の強かった江沢民政権から「対米・対日外交を独立して考える傾向」(米中関係筋)を持つ胡錦濤政権に代わって以来、対応を一変させた。
一連の米中首脳会談では胡錦濤国家主席がブッシュ大統領に対して、「北朝鮮問題は米中両国にとって、戦略的モメンタムを創出する」(元ホワイトハウス高官)と何度も繰り返し、米中連携をアピール。その後もワシントンを訪れた中国高官や密使たちが同様のメッセージを米政権中枢に送り続け、ブッシュ政権を中国主導による米朝対話へと誘った。
この背景には、世界銀行総裁に就任したロバート・ゼーリック前国務副長官が提唱した新たな対中政策、すなわち「中国=レスポンシブル・ステークホルダー(責任ある利害共有者)論」がある。北朝鮮による核問題において議長国としての存在感をアピールすることで米国に「責任ある利害共有者」としての中国を認めさせるとともに、北朝鮮、韓国、ひいては日本に対しても北東アジア外交における主要プレーヤーとしての立場を強調する。それこそが、中国の設定した「戦略的なゴール」と言える。
北朝鮮融和路線を支持したコンドリーザ・ライス長官は当初、日米同盟への配慮も踏まえ、朝鮮半島情勢について「アジア版ヤルタ会談」とも言える「日米中首脳会談」の発想を胸中に暖めていた。しかし、東西ドイツの統一問題を踏まえた、この発想は政権内外のアジア専門家から袋叩きにされ、そのままお蔵入りになった。
特に、1994年の米朝対話以来、民主党を中心に勢力を増す「朝鮮派」は「当事者である南北朝鮮を入れない構想はナンセンス」と激しく反発した。ドイツ統一のプロセスでライス長官の知己を得たフィリップ・ゼリコー前国務省顧問による進言をベースとした構想はこうして葬り去られた。
一方で、ライス長官を頂点とする国務省の「欧州屋」たちはかねて、アジア太平洋に欧州安保協力機構(OSCE)のような「多国間安保機構」を創設する可能性を検討していた。歴代米政権はこれまで「モザイクのようなアジアに多国間安保機構は不可能」(ウィンストン・ロード元国務次官補)という姿勢を取ってきた。
だが、米外交サークルで「アジア知らず」(元国務省高官)と揶揄されるライス・ヒルら国務省内の「対朝融和派」は現在の6カ国協議の枠組みを将来、こうしたものに発展させることも視野に入れている。
先にヒル次官補が発言した米中両国に南北朝鮮を加えた「4カ国協議」構想について、最近来日した米国務省高官は「6カ国協議の合意内容に即している」と説明する。
しかし、こうした建前論とは裏腹に米中両国に南北朝鮮を加えるという枠組みを生み出した背景には、「アジア版ヤルタ会談」構想を葬り去った米国内の「朝鮮派」と、6カ国協議の将来図を描く国務省内の「欧州屋」の共鳴・融合があったと見て間違いない。
対話路線に転換する前、ブッシュ政権は北朝鮮の核問題について、いわゆる「リビア・モデル」をあてはめようとした。
カダフィ大佐率いる軍事的独裁者が自らの戦略的判断で、核への野望を公式に捨て去ったリビアのパターンを理想とするもので、政治的、軍事的、経済的に国際的な圧力をかけ、孤立させることで金正日総書記やその周辺に核開発計画を断念させ、自ら申告させることを狙った。
しかし、ブッシュ政権自らが電撃的に対北朝鮮政策を転換、北朝鮮との対話路線に大きく舵を切った今、このリビア・モデルを朝鮮半島に当てはめることは極めて難しくなった。
求める北朝鮮 容認する米・中
ここで浮上しているのが、白人政権から黒人政権へと歴史的な転換を図る過程で、過去の核開発計画を自ら申告・放棄した南アフリカ共和国のパターンを模索するという構想である。
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米国が朝鮮半島において「南ア・モデル」を追求する場合、長期的かつ、壮大な仕掛けが必要となる。まず、この前提として将来、韓国と北朝鮮が念願の民族統一を果たし、「統一朝鮮」が生まれなければならない。
それを前提とした上で、第一段階では韓国に再度、非核宣言を実行させ、一方で日本に提供している核抑止力の「強化」を申し出る。さらに朝鮮統一後、旧韓国政府を主体とする民主的な政権誕生を促し、この政権にかつて南ア政権が行ったように旧体制の悪弊の一部として、すでに北朝鮮が現在保有しているであろう、核兵器や核物質、核開発関連施設などを自ら公表させるというシナリオとなる。
だが、このシナリオには大きなリスクが伴う。最たる例が中国の動向である。北朝鮮による限定的な核保有については対米、対韓国政策上、容認すると囁かれる中国がこの「南ア・モデル」をすんなりと受け入れるか。そもそも、その前提となる朝鮮半島の統一や、韓国政府主体の新政権樹立に中国がどう反応し、どのような対抗措置を取るのか。
朝鮮半島における「南ア・モデル」はあまりにも多くの不確定要素をはらみ、あまりにも多くの部分を中国の動向に依存しなければならない。冒頭に触れた米外交サークルの懸念は、こうしたジレンマから発生したものと言っても過言ではない。
米中両国が繰り広げる戦略的綱引きの中にあって、日韓両国はともに無力感を強めている。
まず、クリントン政権時代に「市民権」を得たはずの日米韓3カ国による対北朝鮮政策対話の枠組み(TCOG)はブッシュ政権当初の米朝対話拒否に連動して事実上、「消滅」したままとなっている。
韓国歴代政権が掲げてきた「太陽政策」も当初はブッシュ大統領本人によって真っ向から否定された。だが、先の米中間選挙後は一転して米朝対話を全面的に支援するインフラとして再浮上。一方、拉致問題という国内政治上の問題を抱える日本は当初、強硬路線で米国と足並みを揃えたのもつかの間、ブッシュ政権の融和路線への転向に伴ってその足場を失い、6カ国協議での存在感を急速に薄めている。
朝鮮半島を襲う荒波にもまれる日韓両国を尻目に急速に存在感を増す中国は今後、米国で静かに広がる「対中幻想論」と「中国脅威論」を横目でにらみながら、北朝鮮の核問題を巡る手綱の引き締め具合を自在に調整してくる。
「北朝鮮の核保有を断固として認めない」(中国外務省)という建前とは違い、中国は手元の「北朝鮮カード」の値を目一杯まで引き上げ、将来の「台湾統一」の際の「切り札に仕立てようとしている可能性」(元米国防総省高官)もある。
対北朝鮮政策であまりにも急速に舵を切った現在のブッシュ路線は結果的に見て、北東アジアにおける中国の巧みな外交戦略を強力に後押しすることになった面は否めない。長期的視点に立てば、それは東アジアでの米国の影響力低下へと続く道につながる恐れもある。この現実から目をそらすことなく、日韓両国は相互に目を配りながら、長期的な外交・安保戦略を練り上げていくことが求められている。
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