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2007年8月1日発行版
 
“退治”された自民党
 
 

 自民党が惨敗した。
 敗因は、年金問題にあったといわれている。安倍政権のモットー「美しい国ニッポン」を訴えるにも、遊説先で年金問題が追及され、これへの釈明に力を注がざるを得なかったと、自民党候補者たちは口を揃えて敗戦の弁を語った。
 日本の有権者は“懐勘定”に実に敏感だ。それはどの国も同じだが、日本の有権者の場合、なかんずく、懐感覚は強い。政治を選択する姿勢としては世界でも希少に属するのかもしれない。政治に“夢”を託すことなど疾うに諦めた人々の姿がそこにある。依然広がり続けている無党派層の存在と、投票率の低さがそのことを語り続けてもいる。
 「消えた年金」を国会で最初に追及したのは民主党の長妻昭衆議院議員だ。民主党はさかんに、今回の大勝で長妻氏の功績を称えた。
 だが、年金問題が浮上していなければどうなっていたか。ある意味でそのこと以上に重大な、集団的自衛権の問題、憲法問題、教育問題などで、民主党は自民党に太刀打ちできず、多分、有権者もほとんど関心を示さなかっただろう。“懐”の問題以外、政治や国際問題のイシューで野党が勝ったためしはないのだから。自衛隊が戦後初めて武装し海外に出るという「イラク特措法」にすら、有権者の多くは関心を向けることがなかった。年金問題がなければ安倍政権は大勝した可能性すらあった。民主党はいわば、自民党のミスを衝いて勝利したにすぎないと言えば、うがちすぎるだろうか。
 1989年の第15回参議院議員通常選挙。やはり自民党は大敗した。当時の社会党は改選議員の倍以上を獲得した。社会党の土井たか子委員長(当時)は「山が動いた」と言ったものだ。この時も有権者は、自民党の「消費税導入」に対し敏感に反応した。年金問題に対する反発は89年の時の比ではなかったはずだ。少なくとも自民党は「年金に足をすくわれた」との感を強くしているだろう。
 問題はしかし、自民党にとって想像以上に重大だ。単に年金問題だけなら、18年前と同じようにすぐに挽回することができる。今度はそれが許されるかどうかだ。自民党が敗因としている理由だけなら、片山虎之助自民党参議院幹事長が、民主党新人、姫井由美子氏に敗れたり、参議院のドンとして長く君臨する青木幹雄参議院会長のお膝元で自民党候補が敗れたりしただろうか。たとえば「姫の虎退治」という謳い文句に快哉を挙げた岡山の有権者のように、有権者は“自民党退治”を行ったのだと、安倍政権は受け止めるべきだった。
 単に逆風が吹いたわけではないだろう。安倍政権は有権者をこけにしすぎたと言える。強行採決の乱発、度重なる閣僚たちの“不適正発言”と不手際。歴代自民党政権でもっとも破廉恥な政府と世上言われていることを安倍首相は耳にしていなかったのか。有権者の安倍政権への不信と怒りが「年金問題」でピークに達したのだということを、「安倍続投」を早々と表明する自民党幹部たちは知っておいたほうがいい。
 船田元自民党衆議院議員は、「小泉政権の時代から党内では命令が多くなった。以前のように各派閥、党員に対する説得活動は影を薄めている」と、語った。
 権力とは、多様な質を権(つりあわせる)力のことを言い、これに物言う国民の権利とは、本来、「権理」であり、理(ことわり)を権(つりあわせる)ことを言う。人の欲望を根絶することで成立する北朝鮮政権や、人の欲望をかき立てることで共産党独裁政権を維持しようとする中国政権などは論外として、普通の国で国家権力の存在が許されているのは、異見を尊重する社会の「理」を、「権」ためでしかない。その思想と機能を安倍政権は喪失したと海外のメディアは見ている。
 総理大臣の主人は国民以外にない。その国民が今回、安倍政権の退場を願った。ご本人は「続投」に意欲満満だ。日本でうまれながら、日本の選挙に口だししなかった本紙も、ここ一番、物を言わずばなるまい。

 
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