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「本当のママに会いたい」 施設脱走 ワーニャの逃避行
いいタイトルである。「この道は母へとつづく」はロシアの孤児院で暮らす六歳のワーニャが養子縁組で得たイタリア行きの幸運を振り捨てて母親探しの旅に出る物語だ。
まるでドキュメンタリー映画のようにリアルに感じられるのは、顔も知らない母親に会いたくて孤児院を脱走したという少年の実話を基にしているからだろうか。
また金で買う養子縁組というロシアだけでなく韓国や中国など世界に共通する社会問題もきっちり描かれていることと関係しているかもしれない。
映画は凍てつく冬のある日、イタリア人夫婦が孤児院を訪れるところから始まる。親に捨てられ貧しい生活を送る彼らの関心事は、お金持ちの養父母に気に入られ院を抜け出すことだ。ワーニャが選ばれた。仲間は彼を羨望と嫉妬の混ざった目で見つめる。
最初は行く気になっていたワーニャだが、先に引き取られていった友達の実の母親が息子を捜しに現れて心が揺れ始める。「本当のママに会いたい」。思いつめたワーニャは思い切った行動を取る。必死で文字を覚え夜間、資料室に入り込み保管されていた自分の出生記録を盗み読む。「別の孤児院から移籍」の文字。母の名前と住所は書いてなかったが、そこへ行けば母のことが分かるかもしれない。
孤児院の脱走というワーニャの行動が突然サスペンスの様相を呈していく。
列車の中で智恵を尽くして逃げようとするワーニャ、列車に先回りして何度もつかまえようとする仲介業者の女ボス。「母に会いたい」「捕まえて金にしたい」。その双方の執念と執念、智恵と智恵が年齢差を超えてぶつかり合う。
その過程で様々なドラマが待ち受ける。ワーニャから金を巻き上げるチンピラ。列車内での喫煙で罰金を科せられそうになった女性を「もうしませんから今回は許して」という機転を利かせた一言で窮地を救い、感謝されてサンドイッチにありつけるばかりでなくトランプゲームにまで参加して、一人旅の不安をまぎらわすことができるのである。追うボスは、彼が訪ねようとしている孤児院に何度も電話で確認し、さらにわざわざ押しかけて確認する。孤児院の当主はそんなボスに批判的で、結局少年の味方になってくれる。
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| 集飛びだしたワーニャはさまざまな出会いを重ね、母のもとへ・・・ |
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ボスのいいなりだった運転手も主人面する横柄な彼女に嫌気がさして、最後には少年の側に立つ。ほかにもワーニャを助けてくれる善意の手が次々に差し出される。正義は勝つという単純な話ではない。金への愛よりも人間愛の方が強いのだとアンドレイ・クラフチューク監督は言いたげである。
少年役のコーリャ・スピリドノフの演技がすばらしい。必死に追っ手から逃げる、母を思う、智恵を尽くす。どのシーンでも俳優ではなく少年本人がそこにいるかと思うほどに自然である。ラストでワーニャのはにかんだような、少しうれしそうに期待を抱いたような様々な感情の混ざり合った表情が抜群にいい。これだけで「いよっ、名優」と声を掛けたくなる。見る価値があったと実感できる。そして最大の泣かせどころである。
プログラムの中で監督は言う。「本作は愛、自尊心、気高さの物語です。どんな状況であれ、自分の心と人の道に従って行動する限り、その人間は間違いなく勝者です」。さらに「主人公のワーニャのように、あれだけの偉業をやり遂げられる小さな英雄がいるなら、ロシアの前途有望な未来を望み、語ることができるでしょう」とも言う。形を変えた国を愛する映画であり、それは普遍性をもって世界中の人々から共感を得られるだろう。
最後にちらりと姿を見せる母親の名前はヴェーラ。ロシア語で「信じること」という。監督の作品へのメッセージがこんなところにも込められている。
「この道は母へとつづく」は今秋、東京・渋谷のBunkamuraル・シネマ 他全国順次ロードショー。
(アジア映画ウオッチャー・紀平重成)
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