| 焼肉の原型 すでにあり
「信使通筋覚書朝鮮人好物の写」の「獣肉」の項目には、大牢(黄牛肉也)というのが初めにある。その料理法を分かりやすく口語訳にしてみるとこうなる。
肉を薄平に切って小串にさし、油、醤油をつけて炙る。胡椒の粉を少しふるとよい。またゆでる時には、肉、肝、大腸、小腸をよくゆでる。程よく切って皿に盛る。肉は下に盛り、大腸、小腸の切ったものを上に盛りかけて出す。塩に醤油、酢を少し点じ、ひともじ(ねぎ)を小さくきざんで小皿にのせて付けるとよい。
大牢とは牛のことを指す。朝鮮牛は黄色であることから一般に牛のことを黄牛ファンソと呼ぶ。
この料理法の前半はいわゆる焼肉である。炙るというのは直火にあてることで炙ジョッと呼ぶ。
薄切りにして小串にさすが、油(ゴマ油)と醤油での味付け法は、いま日本で広まっている焼肉料理の類型である。この時代以前から牛肉の焼肉法はあった。ただ自分で火を囲んで食べる方法ではなく、台所で調理した人が焼いて皿に盛りつけて出す「ノビアニ」法であった。
当時の朝鮮の文献「山林経済」(洪万選編、1715年)には焼肉総法が記載されており、炙牛肉法、炙鹿肉、炙羊肉、炙兎、炙野鴨法がある。かなり一般的な料理法だったことが分かる。
油と醤油を合わせた薬味を「油醤」(キルムジャン)と呼ぶが、いわゆる「たれ」である。これに生姜と胡椒が使われている。キルムジャンはいまでも各種料理の味つけのポイントとされる。
後半の記述のゆで牛の食べ方は熟膾スッケと呼ばれる料理法である。肝臓などの内臓類によく用いられる。味付けに塩、醤油、酢、ねぎの刻んだものが用いられているが、今日の唐辛子酢みそ(チョコチュジャン)の原型とみてよい。この頃まだ朝鮮の食生活に唐辛子は根を下ろしていないので、焼肉のたれにもチョコチュジャンには辛い味がなかったことが分かる。
いずれにせよ当時の食生活で高級にランクされた料理法を提供するように求めていたことが分かる。
鄭大聲( チョン・デソン) 1933年生まれ。滋賀県立大学名誉教授。韓国食文化研究所所長をはじめ、数々の要職につき活躍中。著書に『焼肉は好きですか』(新潮選書)、『食文化の中の日本と朝鮮』(講談社)など。
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