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2007年6月6日発行版
 
韓国大統領とファーストレディ    李承晩  フランチェスカ・ドナ−中−
黄民基
 
 

ウィルソンの薫陶受けた李承晩
レマン湖畔でフランチェスカと・・・

 李承晩が王命によって渡米したのは1904年11月だった。
 李承晩の対米印象はのっけからよかったようだ。かれは米国各地で、あるべき朝鮮の姿を情熱的に語り続けた。その傍ら、ジョージ・ワシントン大学、ハーバード大学(MAマスターコース)を相次いで卒業し、朝鮮が世界地図から消された1910年(日本による韓国併合)にはプリンストン大学で哲学博士学位を取得する。

ソウル少年職業訓練所を慰問した李承晩と大統領夫妻(1957年3月)
 
   

 かれに学位を授与したのはこの3年後、28代米大統領に就任するトーマス・ウィルソン教授である。
 大統領就任後ウィルソンは、当初、前政権の「ビッグニスティック」(大権主義)と呼ばれたルーズベルト〜タフトの外交政策に批判的で、「道徳ある外交」を唱えてみせた。その理想主義は1919年のベルサイユ条約で色褪せたが、李承晩にすればそのときはもう、米国を他の強国たちとは同列において見ることができないほど親米感情は深まっていた。
 その頃の李承晩にまつわるエピソードは、たとえば詩人・徐廷柱と第2次大戦後、李承晩の政治顧問となったロバート・オリバーなどが多く紹介している。
 第1次大戦下のヨーロッパに米軍を送ることを拒否していたウィルソンが「参戦やむなし」とする議会の圧力に屈してついに派兵を決定した夜、大統領執務室で泣き崩れたという。それを聞いた李承晩はひどく同情し、ベルサイユ条約が英仏のビッグニスティックに押し切られ、「弱小民族の救済」を訴えたウィルソンの意見が退けられたときも、米国の裏切りを言う前に、ウィルソンの慚愧に耐えぬ思いをまず理解せずにはおれなかったという。
 徐廷柱の『李承晩伝記』やオリバーの『人間・李承晩』に目を通せば、李承晩は「アメリカ精神の完璧な具現者」になろうとしていたことがよくわかる。
 「いろんな問題があるにせよ、この国の世界正義と自由主義を求める姿勢は比類ないものだ」
 李承晩は自らの在米体験を通じてアメリカ精神の神髄に触れた気がしていた。
 李承晩のアメリカに対する惚れ込みようは、たとえばE・H・カーが錯覚して「アメリカ人となった李承晩」と書いてしまっていることからもわかる。
 李承晩は帰化したわけではないが、かれにアメリカ幻想を捨てさせる要因はどこにもなかった。卒業後、かれは一時帰国して「3・1蜂起」(1919年3月1日に起こった反日独立運動)後の祖国の惨状を目の当たりにするものの、まるでアメリカに取り憑かれたように直ぐにとって返し、ワシントンを拠点にもっぱら欧米でのロビー活動に情熱をかたむける。
 アメリカ各州、ロンドン、パリ、ローマ、ジュネーブ、ウィーン。どこでも李承晩は好印象を持たれた。弁舌はなめらかで、英語とフランス語に堪能であったということもあるが、出会う人々は一様にかれの物腰のよさを言った。気品があり、高貴な佇まいであったというのである。
 ウィーンで代々醸造業を営む富豪の娘フランチェスカ・ドナはそんな李承晩に惹かれた。
 「この東洋の紳士に人を惹きつける何か神秘な力のようなものを感じた」
 ドナは自伝的な著者『大統領の健康』で書いている。
 フランチェスカ・ドナが李承晩と初めて会ったのは1933年、スイス・ジュネーブのレマン湖ほとりのホテル「ドゥ・ラ・ルーシ」だった。
 ドナの父はかのじょに家業を継がせたかったようだ。息子がおらず、末娘を男のように育てながら、醸造業に関する専門学校に送り、英語と醸造技術を学ばせるためスコットランドにも留学させていた。
 そんなドナが、母と共に欧州各地を旅行中、ホテル「ドゥ・ラ・ルーシ」に目をとめた。
 同じホテルに投宿中であった李承晩がある日、ホテルのレストランで食事しようとし、満席で待たされていたときだった。支配人が、ドナとかのじょの母が座っていた4人掛けテーブルに近づいてきて「東洋からいらっしゃっているお客様が席がなくて困っていらっしゃいます。同席していたただいてよろしいでしょうか」
 ドナの母は快く引き受けた。こうしてドナは運命の出会いを果たすことになった。フランチェスカ・ドナ33歳。李承晩五八歳だった。


ファン ミンギ ノンフィクション作家。1948年生まれ。長く東欧報道に携わる傍ら、翻訳、映画評論なども手がける。著書に『只今戦争始め候』(洋泉社)『奴らが哭く前に』(筑摩書房)。

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