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2007年4月18日発行版
 
BOOK TIMES 読書
 
 

横浜コトブキ・フィリピーノ  レイ・ベントゥーラ著
「家族の生活は俺が守る」フィリピーノの心意気
評者 下川耿史

 外国人労働者の処遇は避けて通れない政治的課題だが、新聞やテレビの報道で見る限り、政府や行政の対応にはアナクロな面が目立つ。政治や官僚機構は日本国民を相手にする時も、「無知な国民を善導してやる」という意識がさまざまな形で見られるが、外国人が相手となると、この意識がいっそう鮮明に働き、それが横柄さやアナクロな側面を際立たせているようだ。

神主 亡くなった先祖たちのために木でつくった位牌。栗の木を用いることが多い 『東亜世界大百科事典』より
 
   

 そういう状況を外国人はどう克服しようとしているか? 本書はフィリピン人についての報告である。
  本書で何よりも印象的なのは「家族の生活は自分が守る」というフィリピン男性の気概と、生活のイメージがマイホームや電化製品に象徴される物質文明に直結していることである。
 たとえば日本ではブルーマンション(著者の造語で、ホームレスのテントのこと)に住みながら、母国の家族は新築した家で、さまざまな家電製品に囲まれながら生活しているという例が結構あるらしい。
 日本人の目からすれば、かなり奇っ怪だが、男性が帰国すれば送金がなくなり、その生活が維持できなくなるのだから、家族を維持するためにはやむを得ないのである。それだけに彼らの家族の絆に対する思いは強く、気概の根底には子どもたちへの愛情が流れている。
 もう一つ心に残ったのは、外国への出稼ぎに対する考え方というか、「日本がダメならアメリカ(あるいは中東)があるさ」といわんばかりで、視野が世界に向いていることである。
 本書によると外国の扱いも似たり寄ったりで、とくにブッシュ政権下のアメリカは日本よりもひどいようだが、それでも彼らの気概(知恵と行動力)は衰えることがない。日本でフィリピン人が置かれている状況とともに、フィリピン人のものの見方などを教えてくれた点で、面白い一冊だった。
 
下川耿史(しもかわ こうし)
風俗史家、1942年福岡県生まれ。著書に『家庭史年表 昭和・平成編』『家庭史年表明治・大正編』
『日本エロ写真史』『日本残酷写真史』など。

 


草原のラーゲリ  細川呉港著
日本、ソ連、中国に翻弄されたモンゴル人の半生
評者 黄民基

 ドイツの再統一が成って後、残る分断国家の地域は朝鮮半島だけだと韓国人はよく言うし、世界はおおむねそのように認識している。北アイルランドの紛争が宗教問題によるものでなく、南北アイルランドの再統一への熱情に基づくものだという認識は寄せられそうにないし、モンゴルが3つに分割されていることに対してもさほど興味はもたれていない。そんな認識不足を痛感させてくれる本だ。

文藝春秋 2476円
 
   


 日本の敗戦で、「満蒙統治大綱」が紙くずとなった後から、本書は始まる。タゴール族モンゴル人としてハイラル郊外で生まれた主人公ソヨルジャブの希望と挫折の話もここから始まった。
 「希望」は「内外モンゴルの統一」である。全編を貫くテーマであると言っていい。その希望が挫かれていく背景に、独立とは名ばかりの「モンゴル人民共和国」がソビエト化される姿があり、自治区とは名ばかりの「内モンゴル」で中華思想によって抑圧される姿がある。もっと悲劇的な地もある。独立の名も自治区の名も与えられず、ソ連に併合されたブリヤート・モンゴルだ。ソヨルジャブは、そうした歴史を生き、目撃した。
 ウランバートルのラーゲリで収容された日々、大戦後と文化大革命で、チベットと同様、内モンゴルで階級闘争の名の下に、モンゴルの文化が破壊されていく状況に身を委ねなければならなかった日々。それらの出来事が、細川呉港の手で淡々と、しかし、壮大な歴史観をもって綴られていく。視点は、ある意味で、辺見じゅんの『ラーゲリからの遺言』以上に公正で広い。
 惜しむらくは、日本統治下のモンゴル人の思いをもう少し、深く、ソヨルジャブの記憶から引き出してほしかった。そうすれば、チャンドラ・ボースが欧米に反発して大東亜共栄圏に望みを託したのとはまた違う、アジアにおけるかつての日本の位置が、中国人とは異なる歴史認識で語られたのではないかと思うからだ。

黄民基ファン ミンギ
ノンフィクション作家。1948年生まれ。長く東欧・北朝鮮報道に携わる傍ら、翻訳、映画評論なども手がける。著書に『只今戦争始め候』(洋泉社)『奴らが哭く前に』(筑摩書房)など。

 

 

   

新刊紹介

朝鮮王朝の衣装と装身具

 張淑煥さんは、梨花女子大学の澹人服飾美術館館長。両班家庭に育ち、朝鮮王朝の伝統的な服装や装飾品の美しさを日常生活の中で知った。その著者が集めた澹人服飾美術館のコレクションと韓国国立民俗博物館、国立故宮博物館の収蔵品の中から約300点を収録。豪華な刺繍を施した衣装や繊細な細工の簪に目を奪われる。韓国の服飾文化の奥の深さが伝わる。
 (張淑煥監修・著 原田美佳ほか著・訳 淡交社刊 3990円)

 

ハングル ペラペラ ドリル

 語学を始めるとき、一番初めに出会う先生なり、教則本がその勉強の進行具合にかなりの影響を与える。難しすぎても、硬すぎてもいけない。その点を著者はよく心得ているようだ。文法と単語がページを追っていけば自然と身につくような構成になっていて、気楽に勉強を進めていける。また、CDによる発音の指導も丁寧にされていて、初心者には最適の教則本。著者は韓国の食べ歩きでも知られている。
 (八田靖史著 学研刊 1200円)

食ものがたり(95) 山芋 2
 山芋は煮たり焼いたりの加熱をせず、生食することが食事の消化を助けてくれることは前回に取り上げた。
詳細はこちら
 
 
 
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