 |
|
渋谷区代々木1−35−1
入り口に立っただけでも本の数に圧倒される |
|
| |
|
 |
|
| 開発が進む、駅前周辺。古いビルは年々消えて行き、残り少なくなった |
|
| |
|
昭和の匂い 本への郷愁かきたて
JR代々木駅で降りる。南を向けば代々木公園、東には新宿御苑がある。緑豊かな一帯だが、北側には新宿の高層ビル群が迫っている。大学予備校のメッカでもある。駅の周辺に大手予備校の校舎が集まり、アニメや美容、服飾の専門学校も表通りに軒を連ねている。当然、若者が多い。
そんな代々木駅にもたれかかるように建っているビルが昭和の風情を醸し出している。
遠くなった昭和の、それも4、50年代に建てられたものだろうか。入り口は無造作に開け放たれていた。
階段を上がる。ビルの中はひんやりとしていて薄暗い。
中国語の輸入書籍専門店「東豊書店」は、3階にあった。店内に入って、まず驚かされたのは、うずたかく積まれた本の山だ。本棚に入りきらない。天井にまで達している。本の群れの中を1人が通れるだけの通路が申し訳なさそうに設けられている。
一体、どれほどの本があるのか。店主の簡木桂(かんもくけい)さんに聞いた。
「私にもわからないね」
簡木桂さんは、数えてみろと言った。実際に数えてみた。気が遠くなった。1万冊や2万冊どころではなかった。
台湾出身の簡さんは、1958年に来日し、1966年頃、代々木に店を開いた。中国からの輸入書籍も、台湾からの輸入書籍も、共に仕入れた。今となっては、どの書店も普通にやっていることだが、開店当時、日本の中国語書籍専門店は、中国共産党系と国民党系に分かれていたという。
「学問や文化に、思想・政治の壁はない。日本の研究者たちが求めるものを仕入れる。当然の話ですよ」
簡さんはさらりと言うが、この方針は日本人顧客から好評を得た。店内には自然科学の本から占いの本まで、さまざまなジャンルの本がある。品揃えは豊富だ。
東豊書店をよく利用するという、ある大学教授の話だ。
「あれだけの本があるのに、どの本がどこにあるかわかっている。それだけではなくて、この本を読むなら一緒にこの本を読みなさいといったアドバイスまでしてくれる。店が客を育てる。最近そんな本屋さんは少なくなってきていますよね」
決して狭くはない店内。なぜ、本の居場所が即座に分かるのか。
 |
|
|
山積になっていても本の「居場所」は明らかだ |
|
| |
|
「当然のことだ。分からなくてどうする」
簡さんはこともなげに答える。口数は少ない。口調はぶっきらぼうだ。時折人なつっこい笑顔を見せる。
不思議な生き物を置く店が印象に残る映画「グレムリン」の一場面を彷彿させる。そう言えば、その店の中国人の店主と簡さんも似ているではないか。愛想がいいとはお世辞にも言えないが、人をひきつける魅力はある。
「顔写真を一枚」と頼んだ。
「僕の写真はいいから店の写真でも撮ってよ」
簡さんはそう言って、本の整理を始めてしまった。ちらりと笑顔を見せるのが実に印象的だった。
東豊書店を出て、もう一度店を振り返った。
都心にもまだ、こんなにも古めかしい本屋さんが残っていた。その古さが、本というものへの郷愁を掻き立たせてくれた。
(文化部・溝口恭平)
|