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2006年4月5日発行版
 
またしても始まった「後継騒ぎ」
 
 

 北朝鮮のいわゆる「後継問題」が再び取り沙汰されている。使い古しのビデオテープを見せられているような気分だ。
 北朝鮮で権力世襲が行われるのではないか?と、初めて日本で囁かれたのは70年代中頃だった。漏れ聞く話に耳を疑った。日本の識者や朝鮮半島専門家たちは一笑に付した。「まさか」「ばかも休み休みに言え」総連内部でさえ言われたものである。
 慣れとはおそろしいものだ。30年後の今、およそ人びとは、首を捻ることもなく、かの国の権力世襲を自然の成り行きとして眺めるようになった。
 メディアの姿勢も奇妙だ。日本のマスコミは、「後継問題」をスクープ競争さながら追いかけるようになった。かりそめにも「社会主義」を名乗り「共和国」を標榜する国で、3代にもわたり権力世襲が行われようとしている異様さには触れぬままにである。それはまるで劇的な政権交代劇が演じられるかのような伝え方だ。たとえば、ニュース番組の看板解説者が「金正哲氏が指名されれば、拉致問題は一挙に解決するかもしれません」などと発言するような具合にである。金正日の息子たちを「ロイヤル・ファミリー」と呼びながら微笑ましく紹介するニュース番組まであった。まともな国のまともな政権の首班指名争いであるかのような印象をうけた視聴者は少なくなかったはずだ。
 テレビ番組でゲスト解説者に招かれた黒鉄ヒロシ氏が、後継問題をどう思うかと水を向けられ「そういう話に触れたくありませんね。北朝鮮のあり方を認めることになりますから」と答えていた。我が意を得たりと思った。


2代目の強迫観念

 「北朝鮮のあり方」とは何か?それを知るのは造作もない。彼ら自身が語ってくれている。「一瞬を生きても、ひたすら首領のために生き、首領のためには青春も命も喜んで捧げ…」(労働党10大原則)「首領が頭脳、党が細胞、人民大衆が手足」(主体思想三位一体観)。ある人気大学教授は「主体思想を生んだ特異な民族社会主義に注目すべきだ」と北朝鮮のあり方に理解を求めていた。出来ぬ相談だ。
 そも、金日成に権力を保持するだけの名分はなかった。スターリンは独裁者として醜名を後世に残しはしたが、進んで命を賭してツアーと闘い、シベリア流刑の経験を持ちながらボルシェビキで頭角を現したという動かせない事実がある。毛沢東は「大躍進」の失敗と「文革」で何百万人もの人民を犠牲にしたが、八路軍を率い抗日戦、国共内戦に勝利した実績と名誉は今も傷つけられることはない。金日成にこのような党歴も戦歴もなかった。一瞬の政治空白と歴史の悪戯が名分の無い指導者の虚名を広げたにすぎない。金日成に忸怩たる思いがあったのかもしれない。スターリンが死後、猛烈な批判を浴び、毛沢東が存命中、降格の憂き目に遭ったことに金日成は恐怖したといわれる。彼に個人崇拝の強化と権力の世襲を思い至らせた背景である。
 金日成の覚えた恐れと憂いは金正日に持ち越された。国内経済を犠牲にしてまで行った金日成偶像化の各種モニュメントの建造がそれを語っている。「世襲後継者」であるがゆえの強迫観念が作用していたといえよう。


社会主義でもない北朝鮮

 社会主義体制を敷いた指導者たちは、いずれも党を最高の権力機関としていた。個人崇拝が極みにあった時代もあるが、さすがに思想として制度として、個人崇拝や権力世襲を規約や原則事項に文言で取り込むという破廉恥は行えなかった。その破廉恥を外聞もなく金日成と金正日は2代にわたりやってのけた。次の代が金正男であれ金正哲であれ、そのような国の世襲権力者に他国指導者並の心象を与えてやるわけにはゆくまい。
 彼らはそれでも「共産主義」と「共和国」を標榜する。「あんな奴らに名乗られてはたまらない」と、スターリンですら顔を背けるだろう。実体があろうがなかろうが共産主義の外皮をまとわぬかぎり存続できず、「対南赤化」の名の下に北朝鮮の若者を死地にやり、日本の若者たちの命と青春を奪い、さらに、ただ自分の権力を守るため、核という兵器で日本と韓国をまるごと人質に取ろうとしているのが金正日だ。またぞろ始まった「跡継ぎ争い」はそのような権力、体制の埒外で行われているのでは決してないのだ。

 
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